ご成約インタビュー No.137
INTERVIEW
神戸牛専門店「吉祥吉」、Lキャタルトンとの資本提携で世界展開
「はい」と答えた一本の電話から世界最大の神戸牛チェーンへ
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株式会社吉祥吉ホールディングス 代表取締役会長 赤木 清美氏
神戸牛専門店として全国約50店舗を展開する株式会社吉祥吉ホールディングスは2025年、世界最大級のコンシューマー特化型プライベートエクイティ(PE)ファンドであるLキャタルトンとの資本提携を発表した。創業から20年以上にわたり神戸牛一筋で事業を拡大してきた吉祥吉が、なぜこのタイミングで外資系PEファンドとの提携を選択したのか。転職11回、引っ越し21回という波乱万丈の人生を歩んできた赤木清美会長に、M&Aの背景から今後の成長戦略まで詳しく話を伺った。
株式会社吉祥吉ホールディングス
ご成約インタビュー動画
一本の電話から始まった神戸牛事業 「やってない」を言わずに専門店へ
神戸牛事業の始まりは、テレビ取材の一本の電話だったそうですね。
そうなんです。「神戸牛やってますか」という電話がかかってきて、実際はやっていないのに「はい」と答えてしまったんです。私の生き方はいつもそうで、チャンスが来たら「はい」と言うようにしています。「いや」と言ったら未来はないだろうと思って、何でもとりあえず受け入れていけば道は開けるという考えでした。
そこから神戸牛の魅力に深く入っていったきっかけは何でしたか。

やはり売上の変化です。今まで海鮮居酒屋で客単価が5000円だったのに、神戸牛にしたらそれほど忙しくなくても3倍ぐらいになったんです。売上を見た時、本当に驚きました。
当時、神戸牛を扱う専門店は存在していましたが、多くのステーキ店では「神戸牛もあります、但馬牛もあります」といった具合に、複数のブランド牛を扱う曖昧な位置づけのお店が多かったです。だからこそ、私たちは思い切って神戸牛だけに特化し、その魅力を徹底的に探求していくことにしたんです。
64歳での決断 成長への制約を打破するM&A戦略
創業から20年以上経ち、なぜこのタイミングでM&Aを検討されたのでしょうか。
M&Aについては、実は2017年から動いていました。私のような素人でもここまで会社を大きくして来れたので、ちゃんとした戦略を立てられる経営陣を招き入れたら、この10倍の規模にはなるだろうと考えたんです。
企業としての一番の課題は、すべて私が仕切っていることでした。各スタッフに責任を持たせていなかった。今はみんなに責任と使命があると伝えています。神戸牛という世界一の食材を扱っているので、それに対する責任があるし、この神戸牛をどのように活かしていくかが我々の使命だと思っています。
数あるファンドの中で、なぜLキャタルトンを選ばれたのですか。
「神戸牛」というブランドは確立されているけれど、「吉祥吉」というブランドはまだほとんどの方に浸透していない。それでも神戸牛は世界中でかなり認知度が高いので、世界に展開している企業と組むことで強いブランドが作れるのではないかと思いました。
Lキャタルトンの方々とお話しした時に、私とは全然違う雰囲気を感じました。Lキャタルトンの皆さんは本当によく勉強されている。その勉強は何のためかといえば、未来を作る相手のためにされているということを強く感じたので、一緒にやろうと決めました。
店舗ブランドを24屋号から数ブランドへ 集約戦略で目指すグローバル展開
現在24の屋号を数ブランド以内に集約する計画の狙いは何でしょうか。
現在、吉祥吉グループは屋号の数が多く、レストランチェーンとしてのブランド力に課題がありました。お客様が入店される時に「ここはチェーン店か」と思われるよりも、お帰りになる時に「ここも吉祥吉グループだったんだ」「だから良かったんだね」と思ってもらいたいんです。
飲食店は人が大きく関わるビジネスなので、スタッフにも「ここは自分の店だ」と思えるようにしたい。吉祥吉グループと関わることによって、多くの人が幸せになっていくグループでありたいですね。




インバウンド需要を追い風に 地域特性を活かした出店戦略
インバウンド観光客への対応と、今後の出店戦略をお聞かせください。
神戸は観光地価格で神戸牛の仕入れ値が一番高くなるため、地元の人には手が届きにくい価格になってしまいます。観光地以外の神戸や兵庫県では、もう少しリーズナブルで「今日は美味しいものを食べたいね」という時に気軽に行ける店を作りたいです。
大阪、京都、東京では神戸牛だけでは限界もあるので、和牛と神戸牛の両方を味わえて、その良さを伝える店づくりを広げていきたい。
実際、吉祥吉の顧客の半分以上は訪日外国人となっていて、Lキャタルトンが注目したのも神戸牛の世界的なブランド力でした。他地域のブランド牛に比べて外国人からの知名度が高く、今後はインバウンド観光客の多い地域に重点を置いて新規出店を進める計画です。


海外のお客様が神戸牛を食べた時の反応はいかがですか。
もう目を見開いて驚かれますね。「わー」という感じで。スタッフも働くことに誇りを感じています。人が笑顔になったり、すごく感動していただけるのは、お金には代えがたいパワーになります。


東京都内での事業展開の手応えや課題はありますか?
特に東京はマーケットが大きい分、競争も激しいですね。ただ、数多く店舗を出すのではなく、質を重視した戦略を考えています。
Lキャタルトンさんとも話しているのですが、神戸は神戸らしさを大切にしつつ、やはり日本の首都である東京では旗艦店としての役割を果たし、存在感や影響力のある店をさらにブラッシュアップして出店していきます。東京での成功が全国、そして世界への展開につながると考えています。
海外展開への布石 神戸牛は日本で、和牛で世界へ
将来の海外展開について、対象地域や時期の見通しを教えてください。

神戸牛は現在、全世界30カ国ぐらいに輸出されていますが、私たちがそれを止めてしまうぐらい、国内でたくさん消費できるようになりたいんです。つまり、本物の神戸牛は、日本に来て食べてもらう。海外では神戸牛ではなく、日本の和牛の素晴らしさを伝える戦略で店づくりを進めていきたいと考えています。
実は私、30数年間パスポートを持っていませんでした。今年になって30数年ぶりにパスポートを取得したんです。やはり実際に現地に行って、その国の文化や市場を肌で感じないとわからないことがたくさんあります。
どの国に展開するかについては、Lキャタルトンの皆さんが持っているマーケティングの知見や戦略に合わせて、私たちも全力で取り組めるチーム作りをしていきたいと思います。彼らは世界各地に強いネットワークを持っているので、その力を借りながら最適な展開先を見つけていきたいですね。
Lキャタルトンと私たち吉祥吉は、将来的にはアジアや北米を中心とした海外市場で、鉄板焼きスタイルのレストランを展開するビジョンを共有しています。特にシンガポールや香港、上海、ドバイなど、高級和牛に対する知名度や需要が既にある都市は有望だと考えています。神戸牛で培った成功モデルを基に、和牛の魅力を広く世界に伝える鉄板焼きレストランを展開していくことを目指しています。
食材への感謝を形に 神戸牛ラーメンに込めた想い
神戸牛ラーメンなど、価格帯を抑えた商品開発の背景を教えてください。
朝礼では「神戸牛と食材の恵みに感謝いたしましょう」から始めます。どんなものも活かせば財産になる。神戸牛においては、鳴き声以外はすべて商品になるので、骨も油も筋も活かしながら、六甲の美味しい水でスープを取って、お手頃価格で提供できます。
3年ぐらいの生命で人間のために食べられていくわけですから、余すことなく活かしてあげたい。手間はかかりますが、もっともっと広げていきたいです。
明るさとスピードが差別化の鍵 「やんちゃだけど意地悪じゃない」企業文化
他の神戸牛レストランとの差別化ポイントは何でしょうか。
やっぱり明るさじゃないでしょうか。お客様がお越しいただいたら、明るくお出迎えする。たとえ高級店であっても、大切な人が来てくれた時のように「よく来たね」という気持ちで。明るくて、スピーディーで、ソフトな対応が、うちの売りだと思います。
新入社員にはどのような価値観を伝えていますか。
明るく素直に、正直に行動する。これが一番人間として成長できると思います。「はい」「ありがとう」「できる」ということを大事にしています。最近の好きな言葉は「やんちゃだけど意地悪じゃない」。そういうところに魅力があるのかなと思います。
新体制下での役割分担 現場重視の経営スタイルを継続
資本提携後の会長の役割をどのようにお考えですか。
一番大切なのは人を見てあげて、ちゃんと承認してあげることです。褒めるだけでなく、存在や言葉、行動を承認するために見てあげることが重要です。店舗が広がっても、できるだけ現場に行って、数字を追える環境づくりが僕の仕事だと思います。
「神戸牛は吉祥吉」のブランド確立へ 世界展開を見据えた最終ビジョン
今回のM&Aを通じて実現したい最終的なビジョンをお聞かせください。

「神戸牛といえば吉祥吉」と言われるブランドを確立し、その吉祥吉が世界に羽ばたくところまで、Lキャタルトンと一緒にしっかりと作り上げたいと思います。私は本当に人に恵まれているので、その恵まれているものを分け与えて、一人でも多くの方に神戸牛から喜びや幸せを感じていただき、世界を広げていきたいです。
私たちは創業以来、「神戸牛の美味しさを一人でも多くの方に伝えたい」という一心で事業に取り組んできました。Lキャタルトンのグローバルな視点と専門的な知見は、私たちが目指す国内でのさらなる店舗拡大、そして世界への挑戦を実現するための大きな推進力となると確信しています。
M&Aを検討される経営者へメッセージをお願いいたします。

ストライクさんは本当に信頼できます。まさに「ストライク!」そんな感じ。いろんな案件を扱っているので、その会社に合った最適な案件を必ず持ってきてくれると思います。
自分の我を手放すことによって、新たな自分が手に入る。M&Aは本当に良い選択だったと思いますし、長い目で見れば早期に成果が出せると考えています。一人で悩まずに、まずは専門家に相談してみることをお勧めします。
本日はありがとうございました。
M&Aアドバイザーより一言(板東 伊吹・コンサルティング部 シニアアドバイザー談)

本件はIFA(資産アドバイザー)からのご紹介がきっかけでした。
コロナ禍の最中という逆境から始まりましたが、2023年1月の初回面談で、吉祥吉ホールディングス赤木会長の掲げる「神戸牛の一貫体制(仕入れ→加工→提供)」というオンリーワンの魅力と、関東展開への情熱に大きな可能性を感じました。
様々な局面がありましたが、インバウンド回復による業績向上を追い風に、多くの候補先の中から、当社を更なる高みへと導く最高のパートナーとしてLキャタルトン様をお選びいただきました。
「神戸牛=吉祥吉」・世界展開の実現に向け、今後もお役立ちできればと思っております。
M&Aアドバイザーより一言(吉田 里穂・コンサルティング部 アドバイザー談)

吉祥吉ホールディングス様は、「神戸牛の取扱高日本一=世界一」を誇るレストランを展開されている企業様です。
私が初めて赤木会長にお会いしたのはコロナ禍を乗り越え、当社が急成長を遂げているタイミングでした。革ジャン姿で登場された会長の圧倒的な存在感は、今でも鮮明に記憶しております。
当初より「ブランディング」と「本部機能の統制」を実現できるパートナーをお探しとのご意向を受け、将来的な海外展開も展望できるLキャタルトン様をお選びいただきました。
初回のトップ面談からクロージングまで1年以上を要しましたが、その対話の積み重ねが深い相互理解につながり、資本提携後は新たな視点を加えた前向きな議論が活発に行われていると伺っております。
日本の外食産業に新たな風を巻き起こす本件に携われたことを心より光栄に思います。今後ますますのご発展をお祈り申し上げます。
2025年9月公開
本サイトに掲載されていない事例も多数ございます。
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