INTERVIEW

事業承継と成長戦略の融合:テレフォームとソフトサービスHDのM&A - 地域企業の新たな可能性を拓く軌跡

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株式会社テレフォーム 代表取締役 桑原 良享氏、株式会社ソフトサービスホールディングス 取締役 太田 洋之氏

株式会社テレフォーム 代表取締役 桑原 良享氏
株式会社ソフトサービスホールディングス 取締役 太田 洋之氏

地方経済を支える中小企業が直面する事業承継問題。後継者不足、資金調達の難しさ、そして変化の激しい市場への対応。これらの課題をM&Aによって克服し、新たな成長の道を歩み始めた株式会社テレフォーム(山口県山口市 以下、テレフォーム)と株式会社ソフトサービスホールディングス(福岡県福岡市 以下、ソフトサービスHD)。本記事では、テレフォームの桑原良享代表取締役とソフトサービスHDの太田洋之取締役の両社にM&Aにおける背景、交渉過程、そして統合後の具体的な変化についてお聞きしました。

第一章:M&Aの舞台裏 - 事業承継と成長戦略の交差点

1.1 テレフォームの苦悩:事業承継問題と成長へのジレンマ

株式会社テレフォーム桑原良享代表取締役
株式会社テレフォーム桑原良享代表取締役

山口県に拠点を置くテレフォームは、地域に密着した情報通信インフラ事業を展開してきました。電話交換機から始まり、インターネット、社内LAN、ネットワークセキュリティ、監視カメラ、ナースコール、Wi-Fi、スマートフォン内線など、多岐にわたるネットワーク関連事業を手掛け、地域社会の発展に貢献しています。
しかし、代表取締役の桑原 良享氏は、59歳を迎え、深刻な事業承継問題に直面。社内にも後継者候補はいるものの、株式の買取資金や銀行借入の保証など、大きな負担を強いることになるため、決断を躊躇していました。
さらに、コロナ禍以降、IT、DXに対する需要が急速に増加し、工事案件が大型化する一方で、受注を請けるためには資金を調達する必要がありました。しかし、ご自身の年齢を考えると、大きなリスクを取ることに躊躇せざるを得ませんでした。

1.2 ソフトサービスHDの見据える未来:インフラネットワーク事業の強化

株式会社ソフトサービスホールディングス太田洋之取締役
株式会社ソフトサービスホールディングス太田洋之取締役

一方、ソフトサービスHDは、制御組み込みソフトウェア開発、医療ビジネス、インフラネットワークの3つを柱とする情報通信事業を展開する企業グループ。長期ビジョン“トライ20”を掲げ、2035年までにグループ会社20社、グループ売上200億円、社長20人育成を目標としております。
しかし、事業ポートフォリオにおいては、制御組み込みソフトウェア開発が中心であり、半導体など補助金に左右され景気の波を受けやすいという課題を抱えておりました。そこで、医療ビジネスとインフラネットワーク事業を強化することで、グループ全体の業績安定化を目指しておりました。

太田:制御組み込み分野が半導体など補助金に左右され景気の波を受けやすいため、医療とインフラでグループ全体の業績を安定させる目的がありました。ちょうどテレフォームと並行して九州メインのインフラ会社とのM&Aも進めていましたが、テレフォームが山口・中国エリアをカバーしていたため、九州から東へのエリア拡大方針と合致し、2社で協力することでより広範囲な展開が可能になると判断したため交渉を進めました。

1.3 ストライクとの出会い:運命の歯車が回り始める

株式会社ソフトサービスホールディングス太田洋之取締役と株式会社テレフォーム桑原良享代表取締役
株式会社ソフトサービスホールディングス太田洋之取締役と株式会社テレフォーム桑原良享代表取締役

桑原氏が事業承継について悩み、ソフトサービスHDが成長戦略を模索する中、両社はM&A仲介会社の株式会社ストライクと出会います。

桑原:様々なコンサル会社からアプローチを受ける中で、ストライクの担当者である松井氏と面談しました。松井さんの誠実な人柄と、事業承継問題と成長戦略の両方を解決できるM&Aという選択肢に魅力を感じました。
2022年9月に手紙をいただき、その後お電話で面談させていただきました。事業承継における課題や、事業を成長させていくために課題になっていることをお聞きいただき、2つをまとめて解決する手段としてM&Aが最適だとご提案いただきました。

太田:弊社は以前からM&Aによる事業拡大を検討しておりました。
ストライクからは、約4年前(2021年9月)に関西エリアのシステム開発の譲渡を希望する会社をご紹介いただいたのがきっかけです。その後もシステム会社を中心に数社ご提案いただきました。

第二章:M&Aの意思決定 - 葛藤と決断の狭間で

2.1 桑原氏の葛藤:従業員の未来と自身の責任

M&Aという選択肢を知った桑原氏でしたが、すぐに決断できたわけではありません。長年苦楽を共にしてきた従業員の未来、そしてご自身の責任。様々な想いが交錯し、葛藤の日々が続きました。
特に、過去の苦い経験が桑原氏の心を重くしていました。28歳で独立した際、部下が先代社長から事業承継後、事業悪化時に自ら命を絶ったという悲しい出来事があったのです。

桑原:社員に精神的負担を負わせることを避けたかったのです。M&Aコンサル会社から買収型だけでなく、自社の特性を維持しつつ進める方法など様々なやり方をお聞きし、最終的にM&Aが最適だと判断いたしました。

2.2 ソフトサービスHDの戦略:TRI20達成への最短距離

一方、ソフトサービスHDは、M&Aを“トライ20”(2035年までにグループ会社20社、売上200億、社長20人育成)達成への最短距離と捉え、積極的に検討を進めておりました。しかし、M&Aはあくまで手段であり、目的はグループ全体の成長と発展。そのため、譲受企業の選定には慎重を期していました。

太田:グループの長期ビジョンとして“トライ20”を掲げていて、その手段としてのM&Aです。情報通信事業としてグループ全体を捉えた場合、グループのポートフォリオにおいてはインフラネットワーク事業の構成比が小さかったため、当該事業を強化することでグループの安定的な収益構造を確立することができると判断いたしました。

2.3 運命のトップ面談:共鳴する経営理念と未来へのビジョン

株式会社ソフトサービスホールディングス太田洋之取締役、株式会社テレフォーム桑原良享代表取締役
株式会社ソフトサービスホールディングス太田洋之取締役と株式会社テレフォーム桑原良享代表取締役

テレフォームとソフトサービスHDのトップ面談が実現。桑原氏と太田氏は、初めて顔を合わせ、互いの経営理念や未来へのビジョンについて語り合いました。
面談の結果、地域社会への貢献、従業員の育成、未来への強い想いなど互いの理念に共鳴し、M&Aへの機運が一気に高まりました。

桑原:事務所が非常に綺麗だったことにまず惹かれました。トップ面談中、社長より年少の主力メンバー(50歳前後)が営業、技術、経理などの役割を明確に分担し、会社を運営している点に感銘を受けました。そして、皆の目指す方向が一致していたことが決定的で、最初に訪問した時からこの会社だと感じました。

太田:ソフトサービスがソフトウェア開発、テレフォームがインフラと業種が全く異なるため、桑原社長がどのような反応をするか、不安でした。しかし、ソフトサービスグループの長期ビジョン“トライ20”と方向性が合致しました。

第三章:M&A交渉の舞台裏 - 葛藤、妥協、そして信頼

3.1 条件交渉:譲れない一線と妥協点

株式会社テレフォーム桑原良享代表取締役
株式会社テレフォーム桑原良享代表取締役

DDの結果を踏まえ、M&Aの条件交渉が開始されました。譲渡価格、支払い方法、経営体制の移行、従業員の雇用維持など、様々な項目について、両社は意見を交わし、妥協点を探りました。
特に、従業員の雇用維持は、桑原氏にとって譲れない一線でした。長年苦楽を共にしてきた従業員の雇用を守ることが、経営者としての最後の責任だと考えていました。

桑原:買い手の条件として、同業者ではない、シナジー見込める先、社内で社長を育てたい。同業だと技術力を相手に合わせる必要あるが、異業種だとこれまでの事業、社員の力が発揮できる自分たちにしかできないことがグループにあるので前向きになれる。

3.2 従業員への説明:不安の解消と未来への希望

株式会社ソフトサービスホールディングス太田洋之取締役
株式会社ソフトサービスホールディングス太田洋之取締役
株式会社ソフトサービスホールディングス太田洋之取締役、株式会社テレフォーム桑原良享代表取締役、ストライク松井
株式会社ソフトサービスホールディングス太田洋之取締役と株式会社テレフォーム桑原良享代表取締役、株式会社ストライク アドバイザー 松井 貴寛

M&Aの条件交渉と並行して、テレフォームの従業員への説明会が開催されました。M&Aの目的、今後の経営体制、雇用条件などについて、桑原氏と太田氏が直接説明し、従業員の不安を解消に努められました。

太田:テレフォームに限ったことではないが、テレフォームの従業員にM&A自体を受け入れてもらえるかというソフト面の懸念事項が大きかったのです。DDフェーズで社員面談を実施した際に、仕事はこれまでと変わらない、待遇改善を実施する等の説明もしましたが、当時の従業員からは仕事が変わらないのになぜ待遇が良くなるのかといった疑問が多く出たが、従業員には桑原社長が丁寧に説明していただいたことでソフト面の不安要素は徐々に解消されていきました

桑原:M&Aから1年強が経過し、ようやく協業が本格的に始動する段階になりました。まずはグループ内で、テレフォームの持つ良いところを活かせるように協力し、お互いに発展的に進んでいけるように頑張っていきたいです。今回のM&Aを機に、地域社会への貢献をさらに加速させ、次世代に繋がる企業へと成長させていきたいと考えています。

太田:M&Aを通じて、1+1が2ではなく3や4になるようなシナジーを目指します。各社の強みを活かし、様々な協業や事業拡大を進めていきたいです。中小企業が抱える資金繰りの悩みは大きな課題であるため、ホールディングスで資金を一本化することで、各社が資金の心配をせず、目の前の事業成長に専念できる体制を整えています。各社がその方針で事業を進めていけば、結果的にグループ全体として成長できると考えています。ソフトサービスHDは、今後もM&Aを積極的に活用し、“トライ20”の達成に向けて邁進してまいります。そして、地域経済の活性化に貢献できる企業グループを目指して、挑戦を続けてまいります。

本日はありがとうございました。

M&Aアドバイザーより一言(松井 貴寛・企業情報部 アドバイザー談)

ストライク松井 貴寛

株式会社テレフォーム様は、山口県において長年にわたり独立系電気通信工事会社として地域のITインフラを支えてこられました。新型コロナウイルス以降、IT化の流れが加速する中で、大きな成長機会を迎えておられましたが、将来を見据えた大胆な投資には慎重な判断が求められていました。
そうした状況下での本M&Aは、ソフトサービスHD様の豊富な経営資源とノウハウを活用し、銀行借入の一括返済や運転資金の確保、取引先との単価交渉力の向上、さらには後継者候補への承継など、成長への大きな一歩となりました。
異業種間のM&Aでありながら、両社は長年培ってこられた事業の強みと未来へのビジョンを尊重し合い、幾度もの対話と熟慮を経て、今回の成約に至られました。両社の新たな挑戦が、お客様、地域社会、そして業界全体に新しい価値をもたらすことを、心より楽しみにしております。

2025年9月公開

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