2025年12月時点
調剤薬局業界の最新動向や課題、M&A事情について、M&A仲介のプロであるストライクの専門コンサルタントが解説いたします。
監修者
田島 竜嗣
薬剤師免許を取得後、大手製薬会社へ入社。地域医療の維持発展に携わるべくストライクに転職。MR、薬剤師としてのバックグラウンドを活かし、後継者問題や事業継続に課題を抱える医療機関のM&Aに複数関与してきた。一貫して医療業界に身を置く背景を強みにヘルスケア業界が直面する課題を解決すべく活動を行っている。
調剤薬局業界とは
調剤薬局業界は、「保険調剤」を扱う薬局が対象です。医師の処方箋にもとづいて薬剤師が薬を調合し、健康保険の適用を受けて患者に提供します。
調剤薬局業界の市場規模
出典:厚生労働省「令和6年度 調剤医療費(電算処理分)の動向」をもとに株式会社ストライクが作成
厚生労働省によると、令和6年度の調剤医療費は8兆4,347億円と推計されています。これは過去5年間でゆるやかに増加している傾向です。
高齢化の進展に伴い市場は拡大していくと想定されますが、国としては、医療費増加に対応するため市場の抑制をしていくと考えられています。
調剤薬局の店舗数は、令和5年度には6万2,828軒まで拡大しています。しかし、今後の見通しとしては、店舗数は増加せず、市場としては分散型から変化し、既存の調剤薬局が集約されていく形になると考えられます。
現在の市場の規模感については、圧倒的に個人薬局が多く、いわゆる小規模事業者が市場の4~5割を占めています。このため、複数の店舗の経営は少ない現状があります。
出典:厚生労働省「令和5年度衛生行政報告例の概況」
調剤薬局業界におけるM&Aの状況
出典:株式会社ストライクによる集計データ
※上場企業が適時開示で公表した案件をもとに集計
2018年度の調剤報酬改定において評価が大きく見直されたことから、M&Aが活発に行われるようになりました。その後、大手企業などで一部編成が完了し、少しの期間落ち着きを見せていましたが、近年また増加してきている状況です。
M&A Onlineの統計によると、調剤薬局・ドラッグストアを買収対象としたM&Aは2024年9件、2025年は8件(※)となっています。2020年と比較すると件数自体は減少していますが、近年は大手調剤薬局が譲受側となる動きを活発化させており、1件あたりの規模が大きくなっています。
※2025年10月6日までのデータを集計
調剤薬局業界全体としては同業種のM&Aが多い状況ですが、訪問診療やオンライン診療などが近年注目されており、IT企業とのM&Aは今後増加する可能性が指摘されています。また、オンライン診療の増加に伴い、配送業との提携も選択肢として考えられます。
現在の調剤薬局業界が抱える課題
現在、調剤薬局業界はさまざまな課題を抱えています。
後継者不足の深刻化
昨今、後継者の不在が課題となっている調剤薬局が圧倒的に増加しています。個人薬局の多くは親族への承継が一般的ですが、少子化や薬局経営の厳しさから、後継者確保が困難になっています。
調剤報酬改定やDX化への対応
調剤薬局では、調剤報酬改定が2年に一回実施され、薬価の見直しが毎年行われています。調剤基本料や薬価の調整などは店舗ごとに対応が必要となり、業務負担が課題となっています。
さらには、マイナ保険証や電子カルテの導入など、昨今のDX化の推進も高齢の経営者の負担を強いており、対応しきれずいたちごっこのような疲弊感をもつ経営者が多いのが現状です。
また、薬価改定では実質的な薬価の引き下げが毎年発生しており、小規模の調剤薬局を中心に財政が圧迫される状況となっています。
地方の薬剤師の不足
地方の調剤薬局の場合、薬剤師が不足して経営が難しい状況に陥ることも珍しくありません。都市部や大手薬局へ薬剤師が集中しており、地域によっては薬剤師の過重労働による悪循環を招いています。
調剤薬局業界のM&Aのメリット・目的
調剤薬局業界のM&Aにおける譲渡側、譲受側双方のメリットや目的を解説します。
調剤薬局業界のM&Aにおける譲渡側のメリット・目的
譲渡側のメリット、目的としては、主に以下が挙げられます。
- ・後継者不足の解決
- ・制度への対応から手を離せる
- ・人材採用・育成の強化
経営者が後期高齢者となり、後継者を見つけることが難しい場合、M&Aによって事業を継続させることができます。上述したように、薬価の見直しや調剤報酬の改定による制度への対応から手を離すことができ、負担が軽減されます。
また、個人薬局には新卒など若い世代の薬剤師が集まりにくいため、M&Aによって大手の名前で人材採用を行える点もメリットです。個人薬局では人材不足の傾向から薬剤師の育成にも苦労するケースが多いですが、人材育成の面でもM&Aの利点を生かすことができます。
DX化が進んでいない場合は、M&Aをきっかけに推進できるケースもあります。
調剤薬局業界のM&Aにおける譲受側のメリット・目的
譲受側のメリット・目的は、主に以下が挙げられます。
- ・店舗数の増加
- ・薬価差益の確保と交渉力の向上
- ・人的リソースの活用
譲受側のもっとも大きなメリットは、店舗数を増やせることです。急激な市場拡大がない業界のため、店舗数が増加することで相加的ではあるものの利益が向上します。
また、ドミナント戦略として特定の地域に集中して調剤薬局を増やすことで、卸への交渉力を高められ、薬価差益の確保につながります。薬価は変えられないため、一括購入によって仕入れ値を下げることでスケールメリットが得られます。
近隣に店舗があれば需要に応じて薬剤師が店舗移動することで加算がとれるなど、人的リソースをうまく使い利益を出せる点もメリットです。
調剤薬局業界のM&Aの注意点
調剤薬局業界でM&Aを行う上での注意点は、主に以下の点が挙げられます。
クリニックとの関係性に配慮する
医療機関の前にある「門前薬局」の場合は特に、クリニックと一対一で経営を行っている場合が多くあります。M&Aを進める際には、医師との関係性に注意が必要です。もし院内処方に戻すとなると売上がゼロになってしまうため、慎重に交渉しなければなりません。
また、クリニックの後継者がいない場合は廃院となる可能性もあるため、後継者の有無や関係性・親族構成なども把握しておくと良いでしょう。
デューデリジェンスを実施する
M&Aを行う上では、財務・労務・法務リスクの有無などを詳細に調査するデューデリジェンスの実施が重要です。調剤薬局では、処方元の医師や配薬支援を行う高齢者施設の経営者などとの間に、経済的な利益供与や不透明な人的つながりがあるケースがあります。M&Aの実施時にはデューデリジェンスを適切に行い、コンプライアンスリスクや事業継続リスクを明確にしていかなければなりません。
処方箋集中率に注意する
門前薬局の場合、特定の医療機関に依存する経営となり、処方箋集中率が高いケースが多くあります。集中率が高い場合、大手企業とのM&A後には調剤基本料が下がってしまうことがあります。譲渡側の利益は、譲受側のM&A実施後の利益とは異なる点に注意して検討しましょう。
調剤薬局業界のM&A事例3選
調剤薬局業界での近年のM&A事例をご紹介します。
調剤薬局業界のM&A事例①
譲渡会社 大手調剤薬局チェーン(全国)
譲受け会社 大手ドラッグストアチェーン(全国)
兵庫県を中心に全国展開を行う大手調剤薬局チェーンが、2024年9月に調剤併設型ドラッグストアチェーンを中心とした業界大手企業とM&Aを行った事例があります。300店舗を超える規模の大きなグループが売却されたこのM&Aは、業界に大きなインパクトをもたらしました。
調剤薬局業界のM&A事例②
譲渡会社 株式会社トミオカ薬局(埼玉県)
譲受け会社 株式会社タウンメディカル(埼玉県)
埼玉県熊谷市で地域に根付いた調剤薬局を展開するトミオカ薬局が、調剤薬局22店舗のほか在宅訪問や保育園運営も行う株式会社タウンメディカル(埼玉県草加市)に株式譲渡を行いました。診療報酬改定や薬価改定への対応をスムーズにし、患者様と向き合い、選ばれる調剤薬局にしたいという想いを具現化されています。
調剤薬局業界のM&A事例③
譲渡会社 調剤薬局企業(新潟県)
譲受け会社 調剤薬局最大手企業(全国)
2025年4月に、新潟県で約30店舗の調剤薬局を展開する企業を、業界最大手のホールディングスが子会社化しました。この事例のように、大手企業が10~30ほどの規模で展開する地場大手をグループに入れたいとする声が多く聞かれます。
調剤薬局業界のM&Aにおける今後の予測
調剤薬局業界では、業界の最大手企業がM&Aを加速させていることから、業界の再編が見込まれています。最大手に準じる地場大手企業が、最大手企業いずれかの傘下に入るといった形が多いと想定されます。超大手の調剤薬局グループが大手を買収し、大手企業が中堅企業・地場大手を買うため、中堅企業が店舗数の少ない個人薬局の買い手になっていくと予測されます。
なお、地場大手企業は数が多くないことから、超大手企業からも買収の希望があがりやすいといえます。また、個人薬局は1、2店舗と少ない店舗数であっても、大きな病院の門前薬局となっている場合などは人気の売り手企業となります。
専門家にM&Aを相談するメリット
- 経営者の高齢化・後継者不在
- 調剤報酬改定や薬価引き下げによる負担増・経営難
調剤薬局業界のM&Aでは、調剤薬局と医師との関係性やリスクの有無など、注意すべき点が多くあります。業界に精通したコンサルタントにM&Aのサポートを依頼することで、注意点の洗い出しができ、スムーズなコミュニケーションを行えます。
コンサルタントに相談することで、自社が知りえない企業とのマッチングが期待できる点もメリットです。名の知れた大手企業だけでなく、地場で着実に成長を続けている企業や、DX化の推進など自社の成長につながる企業とM&Aを検討することができます。
また、一対一ではなく複数の候補先と交渉することで、好条件の売却を行える可能性があります。
株式会社ストライクでは、調剤薬局業界に深く精通する専門のコンサルタントが担当します。仲介サービスを行うため、特定の譲受企業ではなく超大手から中堅企業まで、幅広く候補先をご紹介できます。
また、ヘルスケアグループを立ち上げているため、医療業界に精通したコンサルタントや、調剤薬局や製薬会社での勤務経験が実際にあるコンサルタントなどがそろっております。事業者様の悩みや課題に真摯に寄り添い、候補先選定から交渉、契約締結まで柔軟にサポートいたします。
調剤薬局のM&Aについてよくある質問
売却後に残ることはできますか?従業員はどうなるのでしょうか。
譲渡側の経営者様のご希望があれば、引き続き経営に携わることが可能なケースが多くあります。従業員についても、引き続き勤務いただけます。
M&Aの実施後、調剤報酬の対応はどうなりますか。
調剤報酬改定や薬価の見直しについては譲受企業様が対応をすすめるため、譲渡側の経営者様の負担を減らすことができます。
M&Aによって薬剤師の採用を増やすことはできますか。
ネームバリューのある企業様とM&Aを実施することで、薬剤師の採用も有利にすすめることができます。また、譲受企業様の教育体制を活用できるため、人材育成がスムーズになると考えています。
ストライクのM&Aコンサルタント
箕浦 悠
大学卒業後、大手金融機関にて中小企業向けの法人営業に従事し、中小企業の課題解決に向けて取り組む。2018年、ストライクに入社、M&Aコンサルタントとして医療業界を中心に数多くの成約実績あり。現在、当社におけるヘルスケアグループの責任者として、M&Aを通じてヘルスケア業界の課題解決に向けて活動している。
田島 竜嗣
薬剤師免許を取得後、大手製薬会社へ入社。地域医療の維持発展に携わるべくストライクに転職。MR、薬剤師としてのバックグラウンドを活かし、後継者問題や事業継続に課題を抱える医療機関のM&Aに複数関与してきた。一貫して医療業界に身を置く背景を強みにヘルスケア業界が直面する課題を解決すべく活動を行っている。
高橋 歩武
青森県出身。大学卒業後、大手調剤薬局に入社。中小・上場企業から、医療法人・官公立病院など幅広く担当。中小調剤薬局オーナーの経営課題や、医療機関・企業の再編に直面したことから、地域医療の維持発展に携わるべくストライクに入社。ヘルスケアグループのM&Aコンサルタントとして、ヘルスケア業界の案件に関与。
岡田 昌大
大学卒業後、新卒で医薬品卸業の株式会社スズケンに入社。静岡県にて調剤薬局やクリニック、病院の営業業務に従事し、静岡県中部エリアを中心に担当。スズケン時代の担当調剤薬局の後継者不在によるご相談を頂いた事をきっかけに株式会社ストライクに転職。前職の経験を活かして、調剤薬局や医療法人のM&A支援に携わり、複数の成約実績あり。現在は株式会社ストライクのヘルスケアチームに所属し、引き続きヘルスケア業界の成長と発展に貢献している。
野村 祐雅
大学卒業後、大手製薬会社に入社。MRとして活動し埼玉県、茨城県を担当。日々の業務の中で、地域医療の維持・発展におけるM&Aの重要性を実感しストライクに転職。大学時代に専攻していた福祉の知識、MRとしてのバックグラウンドを活かし、医療・福祉に特化した支援を行う。
金井 駿士
札幌市出身。外資系大手医療機器メーカーにて7年間営業に従事し、医療業界に関する幅広い知見と実務経験を蓄積。医療・福祉分野における専門性をさらに活かし、より高い付加価値を提供すべくストライクに入社。現在は、医療・ヘルスケア領域を中心としたM&Aアドバイザリー業務に携わっており、業界特有の構造や課題を踏まえた実効性の高い提案に努めている。
調剤薬局業界におけるストライクの実績
成約インタビュー
成約実績
2024年9月
譲渡会社
調剤薬局・ドラッグストア
所在地:関東
譲受け会社
小売業
所在地:関東
譲渡理由後継者不在
M&Aスキーム株式譲渡
2022年5月
譲渡会社
調剤薬局・ドラッグストア
所在地:中部・北陸
譲受け会社
調剤薬局・ドラッグストア
所在地:中部・北陸
譲渡理由後継者不在
M&Aスキーム株式譲渡