ご成約インタビュー No.133
INTERVIEW
東大発スタートアップLocationMindが米国Irys社を買収
位置情報ビッグデータで世界展開を加速
- #成長戦略
- #事業拡大
- #戦略的M&A
- #ベンチャー
- #IT・ソフトウェア

LocationMind株式会社 代表取締役CEO 桐谷 直毅氏
LocationMind株式会社 取締役CFO 小川 竜馬氏
東京大学発の位置情報AIスタートアップであるLocationMind株式会社が、米国の位置情報データプロバイダーIrys社を買収した。自前のデータ基盤を獲得することで、150カ国でのグローバル展開を加速させる。日本のスタートアップによる海外企業買収という稀有な事例について、同社の桐谷直毅代表取締役CEOと小川竜馬取締役CFOに、M&Aの狙いと今後の展望を聞いた。
LocationMind株式会社
ご成約インタビュー動画
位置情報ビッグデータと宇宙事業を展開する東大発ベンチャー
LocationMindの事業内容について教えてください

桐谷:私たちは位置情報の会社です。位置情報というのは、誰がどこにいるとか、車両がどこにあるとか、いつお金を使ったとか、「いつ・どこで・何をした」という情報のことです。
当社は大きく2つの事業を展開しています。1つ目は、位置情報をビッグデータとして分析するAI事業です。2つ目は、位置情報のほとんどが宇宙から来る、つまりGPSから来るわけですが、その宇宙の位置情報のセキュリティをアップデートする、人工衛星を活用した宇宙事業です。この2つの事業を持っているのが私たちの特徴です。
今回買収されたIrys社の事業について教えてください
桐谷:私たちは位置情報を大規模に分析する会社ですが、その位置情報を大量に仕入れて提供しているのがIrys社です。
これまで私たちは、世界中の通信会社様、自動車メーカー様、カーナビメーカー様、あるいは独立系のアプリ、時には国が持っているビッグデータなど、活用しきれずに眠らせてしまっているデータを、共同事業として付加価値を高めながら事業化する、事業パートナーとしてビジネスを展開してきました。
今回Irys社を買収することで、実は自分たちでもデータを持てるようになります。これは私たちにとって非常に大きな転換点となるM&Aです。
自前データ獲得がもたらす3つのメリット
自前のデータを持つことの意義は何でしょうか
桐谷:非常に大きな意味があります。私が注目している点は3つあります。
まず1つ目は、データ利用の柔軟性です。データを持っている人たちは「これにはデータ提供してもいいけど、これには提供してほしくない」という利用条件の制約があります。私たちは東京大学から出てきたベンチャーで、社会課題を解決することが売上の半分ぐらいを占めています。人が困っているところにデータを提供することには、多くの方々が進んでデータを提供してくれます。しかし、民間向けのビジネスでは、利用ケースによっては制約が出てきます。自分たちでデータを持っていれば、この柔軟性が格段に増します。
2つ目は、レベニューシェアをしないことで、利益マージンが高まることです。
3つ目は、Irys社がグローバル企業だということです。私たちは現在20カ国ぐらいで実績がありますが、Irys社は150カ国のデータを持っています。今まで各国でビジネスを展開するたびにデータを探す必要があり、これが相当大変でした。Irys社があることで、150カ国で自信を持ってビジネスができるようになります。
小川:データビジネスの面白さもあります。例えば、データを100で仕入れて20売っても、データは100のまま残るんです。りんごを10個仕入れて2つ売れば8個になりますが、データはそうならない。この特性が、今回のIrys社のビジネスモデルの魅力でもあります。
常にM&Aを視野に入れるベンチャー企業の戦略
M&Aを検討されたきっかけと経緯を教えてください

小川:そもそも私たちはベンチャー企業ですが、常にM&Aの選択肢をオープンに検討している会社です。桐谷も私も、比較的M&Aが得意な人間が多く在籍しています。
Irys社に興味を持った背景は、「米国市場」と「収益モデル」の2つです。位置情報市場は今だいたい10兆円ぐらいある大きな市場で、その中で米国が約半分を占めています。米国は位置情報市場が進んでいて、大きく、かなり加速している市場です。裏を返せば、それだけプレイヤーも多い中で、Irys社は独自のポジショニングを形成しながら、収益モデルをしっかり構築できている。この点がIrys社の強みだと考えました。
桐谷:私たちは会社の中で、常に「欲しいM&A先」というリストを作って更新しています。今回ストライク様にご紹介いただいた案件は、まさにど真ん中の案件でした。
スタートアップによる海外M&Aの難しさ
米国企業の買収で苦労した点はございますか
小川:日本企業による海外M&Aの件数は全体の1〜2割程度と少ないんです。文化の違い、言語の壁などがあり、日本企業に声がかからないことすらあります。その中で、私たちがベンチャー企業だったことで、さらに難易度が上がりました。
特に難しかった点は2つあります。1つ目は「リソース」です。上場企業のようにリソースが潤沢ではないので、少数精鋭でM&Aを進める必要がありました。日々の業務をこなしながら、M&A業務も並行して行うのは非常に忙しかったです。
2つ目は「ファイナンス」です。自己資金だけでM&Aができることは稀で、ファイナンスに頼る必要がありますが、ベンチャー企業がM&Aファイナンスを調達するハードルは、まだ日本では高いのが現状です。
国内と海外のM&Aで文化や交渉の違いを感じましたか
小川:アメリカは「契約の世界」と言われますが、M&Aは結局人との交渉です。アメリカ人といっても、人によって交渉スタイルは様々です。交渉が大好きな人もいれば、口頭でのコミュニケーションを好む人、テキストで全て残したい人もいます。
相手がどういう交渉スタイルでテーブルについてくるのかを早期に見極めることが重要でした。日本人なら言わないようなことも普通に言ってくるので、そういった場面でどう対応するか、常にストライクさんと相談しながら進めました。本当に24時間、深夜問わず連絡を取り合っていましたね。
桐谷:言語は英語でしたが、小川も私も英語は問題なく、ストライクさんの担当者も英語が堪能だったので、言語面での問題はありませんでした。むしろ交渉スタイルの違いに戸惑うことが多かったです。準備していたシナリオと違う展開になることも何度もありました。
明確なシナジーを描いてPMIを推進
どのようなシナジーを見込んでのご決断だったのでしょうか

桐谷:私たちは位置情報を仕入れて、付加価値を高めて売る会社です。例えるなら、トマトを仕入れて、切ってスープにしたり、パスタソースにしたり、いろいろ調理するのがLocationMindで、Irys社はそのトマトを供給する良い農家のような存在です。
また、Irys社はアメリカで非常に良いビジネスを持っていて、収益性も高く、一度お客様になっていただいたら長年お付き合いいただけます。ここに私たちの技術提案力が加わることで、お互いに諦めていた案件を獲得できるようになります。
実際、デューデリジェンスと並行して、具体的な協業案件も準備していました。例えば、国際連合の案件や中東の大手企業の案件で、すでにIrys社のデータを私たちの技術で提供する準備を進めています。非常に明確なシナジーを描けていて、よく知った技術分野でのM&Aだったので、やりやすい案件でした。
クロージングを終えてのお気持ちとPMIの取り組みを教えてください
桐谷:気持ちとしては、非常に満足感があり嬉しいという思いと、買収したIrys社と「これができてよかったね、ワクワクする、LocationMindグループに入って頑張ろう」という、すごくポジティブな雰囲気になっています。
PMIについては、買収時に用意した複数のシナリオのうち、シナジーを最大化するケースに沿って、準備してきたものを今実行しているところです。
PMIで期待しているのは、買収前に見えなかったものが見えてくることです。ネガティブなものもあれば、「そんなものもあるんだ、ラッキー」というものもあります。アメリカで頑張れば頑張るほど、いろいろ見えてくると思うので、なるべくたくさんの発見に出会えるよう、汗をかいていきたいと思っています。
グローバル展開を加速させる成長戦略
今後の展望についてご教示いただけますでしょうか
桐谷:多様な文化をLocationMindグループに取り入れて、強い基盤を持った会社にしていきたいと考えています。もともと東京大学の柴崎亮介先生と会社を作った時、先生からの唯一の要望が「グローバルな会社を作りましょう」ということでした。その思いがずっと頭にあります。
今回のM&Aで150カ国のデータ基盤を獲得したことで、真のグローバル企業として成長していく準備が整いました。
貴社のM&A戦略をご教示いただけますでしょうか
小川:私たちは常に「欲しいM&A先リスト」を作成・更新しています。今回のIrys社は、まさにそのリストのど真ん中にある案件でした。今後も、私たちの事業戦略に合致する企業があれば、積極的にM&Aを検討していきます。
特に、データ分野での補完性があり、グローバル展開を加速できる企業には注目しています。ベンチャー企業だからこそ、スピード感を持って意思決定できる強みを活かしていきたいと思います。
ストライクのサービスや担当者はいかがでしたでしょうか
小川:ストライクさんの担当者は英語が堪能で、人間関係の構築という面でも全く問題ありませんでした。レスポンスが非常に早く、気になることを送るとすぐに返信が来るので安心でした。「一瞬たりとも不安にさせない」という姿勢を感じました。
大風呂敷を広げたりせず、中立的な立場でサポートしてくれていると感じられたのも良かったです。双方のことを考え寄り添ってくれる、信頼の置けるアドバイザーでした。
今後、M&Aを検討される経営者の方にメッセージをお願いします
桐谷:事業や成長を考えた時、足りないパーツを補完していくという考え方が一番大事だと思います。特にスタートアップは、自前で全てを構築する時間がない場合も多いので、M&Aは有効な成長戦略の一つです。
小川:日本のスタートアップによる海外M&Aはまだ少ないですが、不可能ではありません。リソースやファイナンスの課題はありますが、明確な戦略と良いパートナーがいれば実現できます。グローバル展開を考えている企業は、ぜひ海外M&Aも選択肢に入れてみてください。
本日はありがとうございました。
M&Aアドバイザーより一言(豊住 孝文・イノベーション支援室 アドバイザー談)

今回は、東京大学発のスタートアップが米国のスタートアップと提携する画期的なパートナーシップとなりました。日本を代表する急成長スタートアップに対しこのような形でご支援できたことは私にとって大きな経験と学びになりました。米国企業との交渉ということもあり、深夜のミーティング、交渉文化、会計基準の違いなど、大変な部分も多くありました。今後も、世界で活躍するスタートアップの非連続な成長を後押しできるようなM&Aを増やしていきたいと思っています。LocationMind及びIrysの皆様、ご成約、誠におめでとうございます。
2025年8月公開
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