INTERVIEW

インターネット黎明期から現在まで——連続起業家が語る、M&Aによる事業承継と次なる挑戦

スマートシェア株式会社 創業者 西山 統氏、ストライク長谷川、ストライク石川

スマートシェア株式会社 創業者 西山 統氏

インターネットがまだ「128kbpsの専用線」で動いていた1990年代後半、西山統氏はマンションへのネット回線導入という新規事業に飛び込み、大手デベロッパーとの信頼関係を築き上げた。その後、2011年にSNSマーケティングツール「OWNLY(オウンリー)」を擁するスマートシェアを社内ベンチャーとして立ち上げ、上場を目指して組織を整備。しかし2023年、X(旧Twitter)のAPI有料化という予期せぬ環境変化が状況を一変させた。上場戦略を転換し、株式会社MBSイノベーションドライブ(株式会社MBSメディアホールディングス100%出資)への譲渡という決断に至るまでの紆余曲折、そして連続起業家としての次なる構想を、西山氏に語っていただいた。

  • ・スマートシェアは2011年の社内ベンチャーとして誕生。SNSマーケティングツール「OWNLY」を軸に成長を続けたが、X(旧Twitter)のAPI有料化を契機に上場戦略を転換し、MBSグループへの参画を決断した。
  • ・放送コンテンツの企画力とSNSマーケティングの技術力を組み合わせ、ナショナルブランド企業を巻き込んだ広告・キャンペーン経済圏の構築という、両社が共鳴するビジョンがM&Aを後押しした。
  • ・西山氏は創業者として事業を引き継いだのち、光の統合配線システム構築(IOWN)、光ファイバー保守・遠隔監視、ドローン支援といったインフラ監視事業へと軸足を移し、連続起業家としての次のステージへと歩みを進めている。

愛媛の塾経営から漢方製薬、そしてインターネット草創期へ——多彩な原体験が起業家を育てた

西山さんのご経歴は実に多彩です。起業家としての原点はどこにあったのでしょうか。

インタビューに応じる西山氏
インタビューに応じる西山氏

愛媛県の長浜町(現大洲市)で育ちました。母方の実家が和菓子屋で、もともとはそこを継ぐつもりで愛媛大学に進んだのですが、大学2年の頃から塾を経営していまして。最初は家庭教師から始めたのですが、生徒が増えるにつれて、教育学部の友人たちに授業を担当してもらいながら、私はカリキュラム作りと運営に専念して、最終的には50〜60人規模の学習塾になりました。法人ではなく、集金袋で月謝を回収するような、完全な個人営業です(笑)。
卒業後は一度就職しようと商社を受けましたが落ちてしまって、松山に営業所があると聞いてツムラ——当時は津村順天堂——に入社しました。ところが研修を経たら東京本社への配属でした。騙されたと思いましたね(笑)。最初の半年は帰ろうと思っていたのですが、上司や先輩に引き止められているうちに、だんだん東京が面白くなり、結局7〜8年勤めました。

退職後はどのような事業を手がけられたのですか。

辞めてからは美容室の経営をやったり、貴金属の売買やバッグの並行輸入をやったり。パン屋を開業する為にパン職人の修行も5年間しました。キャッシュフローが良くて安定したビジネスとしてパン屋に目をつけたのですが、立地の良い物件が成功の条件で、なかなか出店できる場所が見つからなくて、諦めました。
バブル崩壊直後の1993年頃は、まだWindows 95もない時代です。
34歳のとき、新聞で見かけた求人に応募したのが独身寮向けに電話システムをレンタルしている株式会社キンデン(現在はエフビットコムニケーションズ株式会社)という会社でした。今では信じられない話ですが、当時は大手企業の独身寮に電話が無くてレンタルする仕事があったんです。そこから次にPBX(構内電話交換機)をマンションに売る新規事業の営業をしていたのですが、現場で大手ゼネコンの担当者と話すうちに「これからはインターネットの時代だ」という機運が生まれて。1998年に、大手建設会社と組んで、日本初のインターネット対応マンションの開発に関わりました。

日本初のインターネットマンション開発とは、まさに時代の最前線ですね。

今では当たり前ですが、当時はLANが最初からマンションに引いてあるというだけで話題になりました。ただ、当時は128kbpsの専用回線で、30世帯が1本の回線を共有するような状態でしたから、繋がらない、遅いと毎日のようにお叱りの電話をいただいていました。コールセンターで強く苦情を伝えているお客様のところへ直接謝りに行くと、不思議と「まあ、いいよ」と収まるんです。品質の担保と、問題が起きたときに素早く自分で対処する。これが信頼の源泉でしたね。
その実績が口コミで広がり、大手不動産会社からお声がけいただいて、分譲マンションシリーズのインターネット設備を一手に引き受けることになりました。それが2003年に設立した株式会社オー・エフ・デスク(現在の株式会社オーエフ)という会社の出発点です。新築物件だけに絞って、イニシャル(初期投資)とランニング(維持管理)の両方を得るモデルを作り、今でも住友不動産や三井不動産、大京などの物件を手がけています。

社内ベンチャーからSaaS事業へ——SNSキャンペーンプラットフォーム「OWNLY」誕生の経緯

マンションインターネット事業が安定する中で、スマートシェアを立ち上げられた背景を教えてください。

連続起業家としての足跡を語る西山統氏
連続起業家としての足跡を語る西山統氏

2006〜2007年頃から、携帯電話とWi-Fiの普及によって「自宅のインターネット回線がいらなくなるのではないか」という危機感を持ち始めていました。アメリカは日本より全てにおいて5年以上先に進んでいましたから、新規ビジネスを探して日本に持ってくると言う目標を立てて、2005年から年5回ほど仕事を探しにアメリカ(LA、NY)に行っていました。初代iPhoneやブラックベリーを現地で見て「モバイル化の波が来る」と確信もしました。リスクヘッジのために多角化が必要だと判断したのが、2005年頃のことです。
実際には予想に反して、Netflixの普及などで家庭のインターネット回線の需要はむしろ拡大しましたが、当時の判断としてリスクヘッジの一環で、2008年に経営難に陥っていたSES会社——システムエンジニアを派遣する会社——を買収して再生させました。その会社には技術者が100人以上いて、うち10人ほどが社内で新サービスを開発するチームを組んでいた。彼らと話をする中で、「SNSのキャンペーン管理プラットフォームを作れないか」というアイデアが生まれ、2011年2月に技術者5〜6名と営業1名でスマートシェアを立ち上げました。

サービスはどのように成長していったのですか。

ちょうど2011年というのは、東日本大震災の後にTwitter(現「X」)の利用者が一気に広がり、企業がSNSキャンペーンを本格的に活用し始めた時期でした。その後インスタグラム、LINEと主要SNSが日本に浸透していく中で、キャンペーン管理を一元化するプラットフォームの需要が高まりました。運良く大手広告会社経由でキリンホールディングス様との取組をさせて頂き、同時期に大手クライアント様への展開も加速しました。
サービス名が「OWNLY(オウンリー)」に落ち着いたのは2015〜16年頃です。それまでに3回システムは作り直しています。
キャンペーン自体は、1回で終了しますので継続利用が課題でした。SaaSでマーケティングモデル化をする事で、大手企業に導入していただくと解約がほぼなく、安定した収益基盤になりました。そこでBPO(事務作業代行サービス)や開発案件を積み上げていくというモデルが見えてきたので、上場して一気に規模を拡大しようと考えていました。

上場を断念された経緯を教えていただけますか。

2020年に私が社長に就任して組織を整備し、利益が1億8,000万円程度まで積み上がってきた。まさにそのタイミングで、2023年5月にイーロン・マスク氏がTwitterを買収した影響が直撃しました。それまで無償だったTwitterのAPI連携(エンタープライズ契約)に多額の月額契約費用(ドル建てでしたから円安で打撃)が必要になったのです。その為、そこから利益が毎月消えてしまう状況になりました。上場準備の佳境で利益を積み上げなければならない時期に、なのです。
証券会社も一転して慎重になり、上場準備を続ける管理コストも増大し利益を増やす事への限界を感じました。そのタイミングで役員や関係者と話し合いを行い、「一度立ち止まって、会社の方向性を変えよう」という結論になりました。そこでストライクさんからダイレクトメールが届いたのです。

放送業界とデジタルマーケティングの融合——MBSグループ参画という決断

数多くのダイレクトメールの中で、ストライクのものが目に留まった理由は何でしょうか。

緑の多い(株)オーエフのオフィス
緑の多い(株)オーエフのオフィス

「放送事業者のご指名です」という一文があったことです。それだけです(笑)。ただ、それが刺さったのは、私がもともと放送とSNSマーケティングの組み合わせに大きなポテンシャルを感じていたからでした。
キャンペーンプラットフォームとして積み上げてきた顧客基盤——キリンや大手メーカーといったいわゆるナショナルブランドの企業群——と、テレビ局が持つコンテンツ力、そして大手スポンサーとのネットワークを組み合わせれば、キャンペーン内に広告を取り込んだ経済圏が作れる。視聴率という一方向の指標ではなく、視聴者の反応をリアルタイムで収集してファン化していく仕組みです。テレビ局はコンテンツを作ることは得意ですが、視聴者データの活用や顧客化はまだ発展途上のところが多い。そこにシナジーがあると思っていました。

担当者との面談はいかがでしたか。

最初に長谷川さんが来てくれたのですが、話の中でMBSグループとの連携が出てきて、「デジタルのMBS」を目指しているという言葉が非常に響きました。私が描いていたビジョンと方向性が一致していると感じた瞬間です。一度会ってみようと思いました。
ストライクさんは仲介者として中立の立場でありながら、どんな局面でも迅速に対応してくれました。仲介会社によっては成約が最優先になって、片側の利益だけを誘導するケースもあると聞きますが、そういう感覚は全くなかった。信頼して任せることができました。

改めて、今回のM&Aで見込まれるシナジーを教えてください。

放送局には大手スポンサーとの長年のリレーションがあります。私たちのプラットフォームには、累計940ブランド超、40,000件を超えるキャンペーン実績と、SNSデータの収集・分析技術がある。この2つを組み合わせれば、単なるテレビCMとSNSキャンペーンの掛け合わせではなく、視聴者を顧客化していくまでの一貫したマーケティング体験が作れます。広告主にとってもより精度の高い投資対効果が見えてくる。これはテレビ局単独でも、私たちだけでも実現できなかったことです。

M&Aは事業戦略の一手段——連続起業家が語る、次のステージへの布石

今回のM&Aを振り返って、M&Aという選択肢についてどのようにお考えですか。

中央 西山 統氏、右 ストライク石川 衛、 左 長谷川 奨
中央 西山 統氏、右 ストライク石川 衛、 左 長谷川 奨

M&Aはあくまでも手段です。スマートシェアを成長させるために最も適した選択肢が、上場からMBSグループへの参画への転換だったということで、タイミングと環境が変わればその判断も変わる。重要なのは、今の会社に何が足りなくて、どうすれば最も事業を伸ばせるかという問いへの答えとして、M&Aを捉えることだと思います。
私自身は今、スマートシェアとはまた別の事業を動かしていて、それが最も向いていることだと感じています。スマートシェアはSNSマーケティングの専門家集団として、MBSグループの中でさらに大きくなっていく。それが一番いい形だと判断しました。

起業家として現在取り組まれている事業について教えていただけますか。

私の現在の本業は、インフラ構築とネットワーク監視です。マンションインターネット事業の延長線上にある、インフラを遠隔でコントロールする仕組み作りが一貫したテーマになっています。2015年から太陽光発電所のO&M(運用・保守)を手がけ、現在は蓄電池のO&M、太陽光、大型倉庫や工場へのドローン自動巡回監視システム、大規模再開発地での統合配線システムの保守、さらには自治体や小中学校のEラーニング普及の為のネットワーク構築、インフラ整備なども手がけています。
DJI(中国の大手ドローン、カメラメーカー)とも連携しながらドローン技術を活用しています。さらに画像圧縮技術の特許を12件保有する会社とも連携しており、これを監視映像の効率的な運用に活かしていく予定です。ロボットが普及すれば、そのロボット自体の遠隔監視も必要になる。データセンターや蓄電池施設の熱監視なども手がけ始めています。インフラのあらゆる監視を一手に担う事業体を作っていくというのが、次のビジョンです。

最後に、M&Aを検討されている経営者へのメッセージをお願いします。

タイミングと縁を大切にしてほしいと思います。私もストライクさんのダイレクトメールが届いたのが、上場を転換するまさにそのタイミングだった。もう少し早くても遅くても、違う判断をしていたかもしれません。
それと、M&Aのアドバイザーは複数の窓口を持っておくことをお勧めします。どこにどんな情報があるかわからないので、間口を広げておく。最終的にはやはり、人と人との話なんです。やっぱりデールは難しいです。どんな事業でも、どんな時代でも、これだけは変わらないと感じています。

本日はありがとうございました。

M&Aアドバイザーより一言(長谷川 奨・株式会社ストライク 成長戦略部 シニアアドバイザー談)

ストライク長谷川 奨

スマートシェアは創業から非連続な成長をしているベンチャー企業で、差別化された事業を持ち、若く優秀な人材が多数在籍されております。
大阪に本社を構えるMBSメディアHD(テレビ局)との資本提携ではスマートシェアの成長を加速させ、更なる成長と発展に繋がることを確信しております。今後の両社様の発展を心から願っております。

M&Aアドバイザーより一言(石川 衛・株式会社ストライク 成長戦略部 アドバイザー談)

ストライク石川 衛

スマートシェア株式会社は、企業のSNSマーケティングを総合的に支援するIT企業です。絶えないアイデアと旺盛な事業意欲を持ち合わせた西山様のもとに非常に優秀なメンバーが集まり、更なる成長を目指されております。
今回は、次世代のメディア・コンテンツビジネスの創出を目指し、デジタル領域への進出を積極的に進められているMBSグループのビジョンと西山様のビジョンが一致し、資本提携へと至りました。
本件提携に至る過程でも、将来の連携に期待を寄せながら両社で様々なビジネスアイデアを交換し合い、ディスカッションを重ねていたご様子が大変印象的でした。今後も両社様の益々のご発展を心より祈念しております。

2026年4月公開

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