ご成約インタビュー No.124
INTERVIEW
震災を乗り越え、地域医療を未来へ繋ぐ
~医療法人財団愛生会 浜野介護医療院の事業承継~
- #後継者不在
- #地方創生
- #戦略的M&A
- #従業員雇用
- #介護・医療

医療法人財団愛生会 事務長 南佳憲氏
石川県七尾市で地域の高齢化と共に歩んできた医療法人財団愛生会 浜野介護医療院。介護保険制度の開始と共に療養型病院へと転換し、高齢者や要介護者に特化した医療を提供してきました。しかし、機能特化が足かせとなり、経営は頭打ちに。コロナ禍での赤字体質、職員の高齢化、そして能登半島沖地震。幾重もの困難を乗り越え、事業承継を決断した南佳憲事務長に、その道のりと想いを伺いました。
地域の高齢化と共に歩んだ療養型病院
~介護特化という強みと、地域への貢献~

当院は、一般病院から介護保険制度の開始と共に療養型病院へと転換し、地域の高齢化と共に歩んできました。高齢者や要介護者に機能特化してきた点が特徴です。
経営の岐路 機能特化と震災からの脱却
経営の課題について教えてください。

機能特化は強みである一方、顧客層を広げることが難しいという課題もありました。営業努力が足りなかったこともあり、顧客を増やせず、介護保険の点数も下がる中で、経営状況は頭打ちとなっていました。さらに、コロナ禍で一転して赤字体質になってしまったことも大きな痛手でした。採用面も年々厳しくなり、3つあった療養棟を2つに減らさざるを得ない状況でした。
根本的な原因としては、財団法人という組織形態にもありました。創業者が亡くなられた後は、理事会が運営していましたが、責任の所在があいまいになりがちで、強い牽引力がありませんでした。
譲渡を検討されたきっかけを教えてください。

後継者問題が一番大きかったですね。13年間、事務長として頑張ってきたつもりでしたが、私を含め経営陣が高齢化し、将来にプラス思考を描けなくなってきたことが大きいです。後継者となる医師はいませんでしたし、この法人を残していくためにどうすれば良いか、なかなか良いアイデアが浮かびませんでした。理事長をはじめ、周りの先生方も高齢になり、経営者としての視点を持つことが難しい状況でした。今回の震災で、私自身も「あと2~3年しかできないかもしれない」と思い始めたことも、決断を後押ししました。
救いの手が現れた 「任せてください」という言葉が印象的
トップ面談の印象を教えてください。
第一印象は、「実に大きな人物だ」と感じました。明るく、前向きで驚き、「この方以上の方は現れないだろう」と思いました。当院の状況をしっかりと理解してくださり、「ここは大丈夫。もっとひどいところもいっぱいあったから」とおっしゃってくださったのが、心強かったです。
譲渡の決め手は何でしたか?
齋藤代表理事のような方がいらっしゃることに感銘を受けました。震災でこれだけ大きな被害を受けた地域であることを承知の上で事業をしっかりと継続させる意義を話してくれ、考え方が全く違うと感じました。
また、太平洋側には拠点を持っているものの、日本海側にはあまり拠点がないという状況も、今回の事業承継を後押ししました。関東や南海トラフで地震が起きた際に、日本海側の拠点が必要になるという考えにも共感しました。
建物がしっかりしていて、働いている人がいる、そして、お金がまだ残っているという状況も、事業承継を決断する上で重要な要素でした。
職員への想い 動揺を乗り越えて
従業員の方に譲渡のお話をされた際、どのような反応がありましたか?

譲渡ではなく、マネジメント体制の変更であり、事業も継続、院長も残る、職員も一人も欠かさないと伝えたところ、意外にも平静を維持できました。内面は動揺したはずですが、きっと皆の方が将来を心配していたのだと思います。
未来への願い 事業の立て直しと職員の幸せ
一般財団法人SAITO MEDICAL GROUPに期待することを教えてください。

事業の立て直しと、職員を大切にしてくれれば、それ以上望むものはありません。もちろん、患者様・利用者様にも。
とにかく経営を安定させてほしいと思っています。このままでは赤字が続き、事業を縮小せざるを得なくなるのではないかと心配していました。今の事業をどうやって生かすか、事業承継の契約書にも明記していただき、少なくとも1年間は現状維持を約束していただきました。
地域医療への想い 展望を描けなかった日々
地域医療の維持・発展についての展望をお聞かせください。
正直なところ、日々の対応に追われ、展望を描ける状況ではありませんでした。
震災の爪痕:七尾市で稀な幸運
能登半島地震による病院の被害状況を教えてください。

当院は七尾市では珍しく岩盤の上に立っており、躯体(くたい)が耐えてくれたので、他の医療機関ほどの甚大な被害は出ませんでした。地下水があり、下水道を引かずにいたため、浄化槽が損傷しなかったことも幸いし、トイレがずっと使えたことが、入所者様にも職員にも恵まれた被災地だったと思います。貯湯槽が崩壊したり、空調配管が痛んだりなどの被害はありましたが、貯水槽も健全で、給水車の支援がすぐに入ったため、シャワーが使えるようになったのも早かったです。とはいえ、復旧と言えるのは上水道が通じた3月末でした。
復興への道:支援と我慢の日々
震災からの復興と医療提供体制の再構築はどのように進められていますか?
震災当初は、まず情報発信に努めました。DMATや看護師のDC-CATという看護師の支援ボランティアの方々のお世話になりながら、足りない人員を補い、平常に戻るよう我慢しました。支援が不要になったのは、まだ十分とは言えませんが、離職した職員の補充ができるまで7カ月ほどかかりました。施設が頑丈だったので、職員もそうですが、支援の方々に泊まり込んでもらえたことが大きかったです。
同じ課題を抱える病院へのエール
同様の課題を抱える地域病院へのアドバイスをいただけますか。

事業を継続するために、自分たちだけで抱え込まず、信頼できるコンサルタントに巡り合うなどいろいろな人に頼ることが大切だと思います。
M&Aを検討する経営者へのメッセージ
M&Aを検討する経営者の方にメッセージをお願いいたします。
常に相談できる相手を見つけておくことが大切だと思います。コンサルタントでも、他の経営者でも、誰でも良いので、気軽に相談できる相手を作っておくことで、いざという時に助けになってくれるはずです。
地域医療の未来を拓く
SAITO MEDICAL GROUP 齋藤浩記氏が語る
M&A戦略と熱い想い
一般財団法人SAITO MEDICAL GROUP 代表理事 齋藤浩記氏
SAITO MEDICAL GROUPは、病院、診療所、介護施設、福祉事業所など、医療・介護・福祉分野で幅広い事業を展開しています。近年、M&Aを積極的に活用し、事業領域を拡大している同グループの齋藤浩記代表理事に、M&A戦略や地域医療への想い、今後の展望について伺いました。
多角的な事業展開とM&A戦略
事業内容や強みについて教えてください。

メディカルグループとして、病院、診療所、介護施設、福祉事業所、そして医療に関わる周辺事業を幅広く展開しています。特徴的なのは、後付けで設置できるフィルム式の床暖房の会社がグループに加わったことです。医療機関での温度管理に貢献できると期待しています。他にも、人材紹介会社や不動産仲介事業も展開しており、医業費用にあたる部門の内製化を目指し、グループ全体で自給自足できる体制を構築しています。
愛生会様の譲り受けを決断された背景を教えてください。

話を聞いた瞬間、「いいね!」と思いました。医療は平時も有事も滞りなく提供し続ける必要があるインフラです。日本全国に拠点を持ち、日本の医療のモデルとなるようなものを作りたいと考えています。能登は日本海側の流通の要であり、災害時の医療提供体制を強化する上で非常に重要な拠点になると考えました。当時、北海道、秋田、山口に拠点があり、能登が加わることで日本海側のネットワークが完成するという戦略的な意味合いもありました。
地震については懸念されませんでしたか。
地震による被害はありましたが、建物自体は頑丈にできていました。設備関係の修繕は必要になるだろうと思っていました。報道では伝えきれない現地の状況も聞き取り、災害時に我々が何をできるのかを考える良い機会だと捉えました。能登での経験は、将来起こりうる大規模災害への対応策を具体化するためのモデルケースになると考えています。
トップ面談で感じた熱い想いと地域医療への貢献
トップ面談のときの印象はいかがでしたか?

(左)医療法人財団愛生会 事務長 南佳憲氏
愛生会の理事長や院長は、真面目で誠実な方々という印象でした。長年地域医療を守ってきたという歴史と、これからも地域のために貢献したいという強い思いを感じました。寡黙な方が多い印象でしたが、内に秘めた熱意が伝わってきました。
特に印象的だったお話はありますか?
事業を継続・発展させていくことの重要性と、医療が社会インフラであるという認識を共有できたことです。医療は、地震などの災害時にも提供し続けなければならないものであり、そのためには社会の変化に柔軟に対応していく必要があります。地域社会の中で、医療機関がどうあるべきか、そのために何が必要なのかを共に考え、未来を創造していきたいという思いを共有できました。
地域医療のあるべき姿とM&Aで最も重視するポイント
地域医療のあるべき役割について、どのようにお考えですか?

地域社会に深く入り込み、地域とともに生き、支え合うことが大切だと思います。そのためには、診療報酬や法律の枠組みにとらわれず、本質的な視点から「こうあるべきだ」という発想を持つことが重要です。医療従事者は日々の業務に追われがちですが、法人として将来像を描き、地域社会との連携を深めることで、より良い医療を提供できると考えています。
M&Aで最も重視するポイントは?
将来構想が描けるかどうかです。細かい事務作業などは得意な人に任せれば良いと思っています。それよりも、その地域で何ができるのか、将来どうなっていくのかというビジョンを描けることが重要です。
愛生会様の良いところはどのようなところだと感じましたか?

スタッフの方々が真面目であること。事業承継を数多く経験する中で、雰囲気で良い組織かどうかは分かります。愛生会は、職員の方々が地域医療に貢献したいという強い思いを持っていると感じました。
M&A戦略と地域医療へのアドバイス
今後のM&A戦略について教えてください。
全国組織にすることで、地域ごとの医療ニーズや価値観の違いに対応できるようになります。理想は各都道府県に拠点を置くことですが、モデルを作ることを優先し、今は全国どこでも良いと考えています。財務状況や組織体制、歴史などを総合的に判断し、将来構想を共に描けるかどうかを重視しています。
M&Aを検討されている経営者の方にアドバイスはありますか?
医療の本質を見続けることが大切です。地域社会にとってなくてはならない存在であるという視点を持ち、将来の継続・発展と地域社会との密着を両立させることを考えることで、事業承継という選択肢だけでなく、何らかの解決策が見つかるはずです。
愛生会への思い 未来へ地域医療をつなぐ

(中心左)医療法人財団愛生会 事務長 南佳憲氏
地域にもっと出ていき在宅医療をさらに展開し、介護医療院もフル稼働してほしいです。地域の産業や社会と密着し、豊かな自然を生かしたまちおこし、そして安心安全のシンボルとして、地域に貢献してほしいと願っています。
ストライクの担当者やサービスはいかがでしたか?
3社とお話しましたが、その中では一番だったということは間違いありません。最大の評価は、担当者のスピードでしたね。
本日はありがとうございました。
M&Aアドバイザーより一言(大瀧 卓哉・コンサルティング本部 ヘルスケアチーム アドバイザー談)

医療法人財団愛生会様は、長年地域医療を支えてきた医療法人で、地域のインフラとして機能してきました。医経分離の体制ができておりましたが、人口減少や診療報酬の改定に加え2024年1月の能登半島地震により、経営がひっ迫した状態でした。そんな中「法人を残すための選択肢」としてM&Aをご検討いただきました。
SAITO MEDICAL GROUP様は医療法人の立て直しの経験が豊富であり、人材の採用力に長けている医療法人グループです。これらのノウハウがあることに加えて、齋藤代表理事の人柄、ビジョンにご共感いただけたことが、本件承継の決め手になったのではと思います。
数年後に「あの時の決断は間違いでなかった」と思っていただけるような承継となれば大変嬉しく思います。
両法人の更なる成長・発展を心より祈念しております。
2025年6月公開
本サイトに掲載されていない事例も多数ございます。
是非お気軽にお問い合わせください。
他のインタビューを読む
-
INTERVIEW No.123
PINECONEが語るM&A戦略:
「地味に尖った」企業への共感と未来への継承- #成長戦略
- #戦略的M&A
- #事業投資
- #投資ファンド
-
INTERVIEW No.125
想いを繋ぐバトン
オンリーワン技術が織りなすTakeda Worksと櫻製作所の未来- #後継者不在
- #事業拡大
- #従業員雇用
- #老舗
- #製造業
関連情報
ストライクのサービスSERVICE