ご成約インタビュー No.130
INTERVIEW
自転車卸売業界のリーディングカンパニーが新たなステージへ
新生事業承継との資本提携で成長戦略を加速
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武田産業株式会社 取締役会長 武田 英世氏
武田産業株式会社は2025年4月、新生事業承継株式会社への株式譲渡を実施した。創業から4代続く自転車卸売業界の老舗企業が、少子高齢化による市場縮小という課題に直面する中、外部資本の力を借りて新たな成長を目指す。全国8拠点を展開し、独自ブランドの企画開発にも注力する同社の武田英世会長に、M&Aに至った経緯と今後の展望について聞いた。
武田産業株式会社 × 新生事業承継株式会社
ご成約インタビュー動画
「消費者に近い場所に倉庫を持つ」全国展開の強みを活かした自転車卸売のパイオニア
自転車業界で独自のポジションを築かれていますが、御社のビジネスモデルの核心はどこにあるのでしょうか?

私どもは自転車の卸売業を営んでおります。商品企画をして、中国で生産委託し、それを日本に輸入してストックし、全国の販売店様に卸すという事業モデルです。
現在、全国に8つの営業拠点を持っていますが、これだけの拠点を持つ自転車卸売業者は日本で当社だけです。私どものモットーは「消費者に近い場所に倉庫を持つ」ということ。これによってお客様への迅速な供給が可能になり、きめ細かなサービスも提供できます。物流費の削減にもつながっており、これが当社の大きな強みとなっています。
御社独自のブランド戦略について、その開発背景も教えてください。


はい、「CHACLE(チャクル)」というノーパンクタイヤを使った自転車ブランドを展開しています。また、スポーツブランドで有名な「HEAD(ヘッド)」や、折りたたみ自転車で世界的に知られる「DAHON(ダホン)」といったブランドの商品も取り扱っています。
チャクルについては、韓国の展示会で出会ったノーパンクタイヤに着目し、韓国の友人と一緒に商品化を進めました。従来のノーパンクタイヤは重くて車体にダメージを与えるという課題がありましたが、技術革新により実用的な商品として展開できるようになりました。
少子高齢化の波に直面する自転車業界の構造的課題
4代続く老舗企業として、事業承継の選択肢を検討されるに至った転機は何だったのでしょうか?
3、4年前から検討を始めました。私は4代目で、必然的に事業を引き継いだ立場です。興味深いことに、私自身は自転車に乗らないんです。好きになってしまうと趣味として追求してしまうので、あえて距離を置いて客観的に経営を見るようにしてきました。
以前、当社は投資ファンドの支援を受けてMBO(マネジメント・バイアウト)を実施しました。MBOとは経営陣が自社株式を取得して経営権を確保する手法で、当初は順調にスタートし、外部の資金とノウハウを活用しながら、経営の自由度を保ちつつ成長を目指す戦略でした。
しかし、その後売上が低迷してきました。コロナ禍の影響もありましたが、何より日本の少子高齢化が急速に進んでいることが大きな要因です。自転車業界は子どもの数に大きく左右される市場なのです。
子どもは生まれてから高校生まで4、5台の自転車を買い替えますが、その分母となる子どもの数が毎年10万、20万人と減少しています。電動アシスト自転車という付加価値の高い商品のシェアは伸びていますが、全体としてはプラスマイナスゼロという状況が続いていました。
当初は売上50億円を目指していましたが、10年ほど45億円前後で推移していました。私も年齢を重ね、後継者問題も顕在化してきました。何より社員が安心して働ける環境を提供し続けなければならないという責任を感じ、今回は新生事業承継様のような事業承継に特化した企業の力を借りることが最善だと判断しました。SBIグループという大きなバックボーンを持つ企業に託すことで、社員の雇用を守りながら、会社をさらに成長させる道を選んだのです。
SBIグループの傘下で描く新たな成長戦略
理想のパートナーを選ぶ上で最も重視された条件は何でしょうか?
まず第一に、シナジーがあって事業を発展・成長させてくれる会社であることが前提条件でした。資金力も重要です。自転車業界は淘汰が進んでいますが、まだ業界再編というレベルには至っていません。資金力のある会社にバックアップしていただければ、M&Aを通じて日本一の問屋を目指すことも可能だと考えました。
新生事業承継様も将来的にはエグジットが必要ですが、10年という比較的長い期間で考えていただけること、そしてSBIグループという大きなブランドのバックアップがあることに魅力を感じました。SBIグループのネットワークを活用すれば、様々なところとコンタクトを取って事業を拡大できるのではないかと期待しました。
初めて塚越社長、西田営業推進役とお会いした際の印象をお聞かせください。

塚越さん、西田さんとお会いしましたが、優しそうな印象を受けました。ただ、銀行出身の方々ですから、経営に対しては厳しい面もあるだろうと覚悟していました。
SBIグループは私も証券口座を持っていますし、北尾会長のことも存じ上げています。全く知らない会社ではなかったので、安心して事業を託せると思いました。お二人と話を重ねる中で、オーナー企業として自由にやってきた当社が、より会社らしい組織になっていくだろうという期待も持ちました。
自転車文化の未来を見据えた新たな挑戦
縮小傾向にある国内自転車市場において、どのような成長戦略を描いていらっしゃいますか?
市場がシュリンクしている中で、シェアを伸ばしていく必要があります。同業他社とのM&Aも視野に入れています。また、「DAHON」「HEAD」「チャクル」といったブランドを東南アジアに輸出することも検討しています。まだまだ伸びしろはあると考えています。
電動アシスト自転車の開発も強化していきます。高齢化が進む中で、4輪車や3輪車など、高齢者向けの商品開発も面白いと思っています。自転車は車輪で動くシンプルな商品ですが、付加価値をつけることで新たな市場を開拓できると信じています。
日本の自転車文化の理想的な未来像について、業界のリーディングカンパニーとしてのビジョンをお聞かせください。
日本では自転車は日常使いが中心ですが、スポーツやレジャーとしての側面がまだ十分に発展していません。ヨーロッパのように、大切に長く乗れる高品質な自転車文化を育てていきたいです。
価格面でも課題があります。自転車の価格は安いもので1万円から1万5千円程度と、昔からあまり変わっていません。一方で物流費は高騰しており、1台送るのに5千円から1万円かかることもあります。こうした環境を改善し、働く人々が適正な利益を得られる業界にしていきたいと考えています。
M&A成功の鍵と次世代経営者へのメッセージ
M&Aプロセスを通じて、ストライクのサポートはいかがでしたか?
非常に一生懸命で、親身になって丁寧に対応していただきました。新生事業承継様という、私どもにぴったりの相手を紹介していただき、感謝しています。
担当の小幡さんは、第一印象として「大きい!」と思いました(笑)。私は小柄なので余計にそう感じました。でも、とても素直で、私どもの要望をよく聞いてくださいました。何度も親身に相談に乗っていただき、本当に助かりました。
事業承継の岐路に立つ中小企業経営者に向けて、ご自身の経験から得た洞察や助言をお願いします。
会社にはそれぞれ問題や課題があると思います。優先順位をつけて、一つ一つ解決していくことが大切です。そして妥協せずに、自社にとって最適な相手を見つけることが重要だと思います。
M&Aは大企業だけのものというイメージがありましたが、私たちのような中堅企業でも良いご縁に恵まれました。事業承継で悩んでいるなら、一度ストライクさんのような専門家に相談してみることをお勧めします。譲渡できない場合もあるかもしれませんが、専門家の意見を聞くことが問題解決の糸口になると思います。
社員の幸せを第一に考え、会社として成長し続けるために新生事業承継様にお願いしました。これからも自転車を文化として根付かせ、環境にも健康にも貢献できる事業を展開していきたいと考えています。
自転車文化の継承と新たな成長戦略へ
銀行系投資会社が描く「武田産業」の未来図
新生事業承継株式会社 営業推進役 西田 智昭氏
人口減少による市場縮小という構造的課題を抱える自転車業界において、銀行系投資会社の資金力とネットワークを活かした新たな成長戦略が始動する。事業承継支援を専門とする新生事業承継の西田智昭営業推進役に、武田産業の魅力と今後の展望について聞いた。
銀行法改正が生んだ新たな事業承継支援の形
銀行系投資会社として、事業承継市場に算入された背景や強みを教えてください。

私どもの設立背景には、2019年の銀行法改正があります。従来、銀行は「5%ルール」により一般事業会社の株式を5%以上保有できませんでしたが、事業承継支援に限り、最長10年間であれば100%まで株式保有が可能になりました。この法改正を受け、SBI新生銀行の専門投資子会社として設立されました。
私たちの強みは、SBIグループの総合金融機能を活用できる点に加え、銀行グループとしての高い信用力と豊富な資金力にあります。全額自己投資で外部からの資金調達に頼らないため、オーナー様に安心してバトンを託していただけます。
「チャクル」が切り拓く自転車業界の新たな可能性
縮小市場と言われる自転車業界に投資を決断された理由は?
確かに自転車市場は台数ベースでは縮小傾向にあり、社内承認の過程でも議論になりました。しかし、私たちが注目したのは市場規模の「量」ではなく製品価値の「質」の転換です。武田産業が持つノーパンクタイヤ「チャクル」のような高付加価値商品へのシフトが、今後の成長戦略の核になると考えました。
また、私自身がSBIグループの昭和リースから出向しており、そこでも自転車ビジネスに関わっていたことから、グループ全体でのシナジー効果も期待できると判断しました。何より、武田会長とお会いして、その経営哲学と事業への情熱に共感できたことが投資を決断する最大の決め手となりました。
武田産業の企業文化や事業特性の中で、特に継承し発展させたい要素は何でしょうか?
武田産業は単なる自転車の卸売業者ではなく、自社ブランド製品を企画・開発する創造性を持った会社です。全国8拠点のネットワークと、「チャクル」に代表される独自商品の開発力は、他社にはない強みです。
私たちが特に継承しさらに発展させたいのは、この「創造する力」と「価値を届ける力」の両面です。自転車文化の継承はもちろん、「武田産業」というブランド自体の認知度を高め、より多くの人に価値を届けていきたいと考えています。まずは国内市場でしっかりと「チャクル」の認知度を上げることが先決だと考えています。
経営者と「言語」が合致した瞬間
トップ面談で武田会長と初めて対面された時、どのような印象を持たれましたか?
武田会長は豊富な経営経験をお持ちで、事業承継についても深い理解がありました。他のオーナー様と比べると、非常に「言語が合う」という印象を持ちました。これは経営者との対話において非常に重要な要素です。
事業承継は単なる株式の売買ではなく、長年築き上げてきた企業の歴史や文化、そして従業員の生活を託す重大な決断です。武田会長とは、そうした事業承継の本質的な部分で共感できる関係性を築くことができました。
高付加価値化とガバナンス強化の両輪で成長を加速
武田産業の企業価値向上に向けて、具体的にどのような経営改革を計画されていますか?
大きく2つの方向性で改革を進めていきます。一つは、武田産業の強みである全国拠点網と「チャクル」という独自商品を最大限に活かした事業拡大です。特に「チャクル」は、パンクの心配がないという明確な価値提案ができる商品ですので、この認知度向上と販路拡大に注力します。
もう一つは、現代の経営環境に適応したガバナンス体制の整備です。長年の歴史ある企業ですので、良い部分は残しながらも、より透明性が高く効率的な経営体制を構築していきたいと考えています。
投資先企業の経営に関わる際、どのようなバランスで関与されているのでしょうか?
私たちの投資哲学の核心は「尊重と支援のバランス」です。各企業にはそれぞれの歴史と文化があり、それを尊重することが何よりも重要だと考えています。現在7社目の投資となりますが、会社ごとに柔軟に対応しています。
重要なのは、もともとの経営陣とのコミュニケーションを良好に保ちながら、現場の声に耳を傾けることです。良いところはそのまま残し、課題を一緒に解決しながら会社を成長させていく。これが私たちのアプローチです。過度な介入や急激な変革ではなく、対話を通じた緩やかな進化を大切にしています。
M&A仲介会社との協業において、特に重視されるポイントは何ですか?
ストライクさんとは8年近いお付き合いがあり、非常にコミュニケーションが取れている会社だと感じています。M&A仲介会社との協業で最も重視するのは「誠実さ」と「正確な情報伝達」です。
今回の案件を担当された小幡さんは、武田会長からも厚い信頼を得ておられました。非常に誠実で、真面目すぎるくらい真面目な方です。買い手と売り手の間に立ち、双方の意図を正確に伝えるという仲介者の本質的な役割を完璧に果たしていただいたからこそ、この案件が成功したのだと思います。
事業承継に悩む経営者へのメッセージをお願いします。

長年にわたり一人で会社を成長させてこられたオーナー様の努力と功績は、本当に素晴らしいものです。しかし、年齢的な要因や市場環境の変化により、どこかで限界を感じることもあるでしょう。
そういう時に大切なのは、「一人で抱え込まない」ということです。第三者に相談し、自分自身にとっても、従業員にとっても最適なバトンタッチの方法を模索することが重要です。事業承継は早ければ早いほど選択肢が広がり、より良い結果につながります。
「廃業しかない」と諦めるのではなく、M&Aという選択肢を前向きに検討していただきたいと思います。
本日はありがとうございました。
M&Aアドバイザーより一言(小幡 勇人・事業法人部 アドバイザー談)

武田産業様は1938年創業以来、日本の自転車業界を牽引してこられた、老舗の企画開発型卸企業です。全国8拠点に広がる営業・物流網を活かし、これまで「岩盤のような安定性」のもと堅実な事業運営を続けてこられましたが、武田会長は会社のさらなる成長発展のためには「事業シナジーのある大手資本との提携」も選択肢の一つと考えられました。
武田会長とは買い手候補先について何度も膝を突き合わせてディスカッションをさせていただきました。実際に武田産業様の自転車を購入したり、家電量販店の自転車コーナーに足を運んで市場調査を行ったことは、良い思い出です。
様々な選択肢についてディスカッションさせていただく中で、最終的にはSBI新生銀行の子会社で多角的な支援を行う新生事業承継様との提携を決断されました。今後は、SBIグループのブランド力やネットワークを最大限に活用し、更なる売上拡大を目指されます。
武田会長は弊社の提案に真摯に耳を傾けて向き合ってくださり、新生事業承継様は武田会長の想いや望む未来に寄り添ったご提案をしていただきました。両社に心より感謝申し上げます。
今回の提携により、武田産業様が新たなステージでより一層のご発展を遂げられることを、心より楽しみにしております。私自身としても、今後も本件のような、歴史と伝統を有する企業様のM&Aをご支援できるよう努めてまいります。
2025年7月公開
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