INTERVIEW

「1+1+1=3ではない」──ベイシアがM&Aで描く「掛け算の成長」と東海エリア拡大への挑戦

株式会社ベイシア様
譲渡企業様 譲受企業様
企業名 株式会社トップホールディングス 株式会社ベイシア
所在地 愛知県江南市 群馬県前橋市
事業内容 食品スーパーマーケットの経営。1983年創業。「消費者ニーズにあった良い品をより安く」を理念に、愛知県を中心とした東海エリアで地域密着型の店舗を展開 ショッピングセンターチェーンの経営。1都14県・140店舗を展開。売上高3,615億円(2026年2月期)
M&Aの目的 東海エリアでの持続的な成長と、グループの力を活かした事業基盤のさらなる強化 名古屋通勤圏におけるシェア拡大と、売上5,000億円・長期1兆円という中長期成長目標の加速
今後のテーマ ベイシアのPB商品・DX・ノウハウ導入による収益力向上と、顧客満足度のさらなる向上 「1+1=2.5」のビジネスシナジー創出と、名古屋通勤圏を軸とした東海エリアのドミナント形成

この記事のハイライト

課題:売上5,000億円・長期1兆円という高い目標を掲げるベイシアにとって、オーガニックな自社出店だけでは成長スピードに限界があった。特に東海エリアでは名古屋中心部への進出という長年の課題があり、非連続成長を実現する手段が求められていた。

決断:トップワンが展開する一等立地の店舗網が、ベイシアの名古屋通勤圏ドーナツ状出店の「間」を見事に埋めることを確認。エリア・業態・商品政策の三点で補完関係が成立し、両社の「暮らしに寄り添う」という価値観の一致が最終的なパートナーシップ締結の決め手となった。

成果:ベイシアのPB商品展開・公式アプリ連携・DXインフラ導入・店舗リモデル支援など、多層的なシナジーが始動。東海エリアに「ベイシア×トップワン」という新たなドミナントが誕生し、地域のお客様への価値提供が一段と厚みを増す新たな成長ステージが幕を開けた。

株式会社ベイシア三池雄太氏、ストライク鈴木悠太
株式会社ベイシア 経営企画本部 役員待遇本部長 三池 雄太 氏(右)と、ストライク 鈴木 悠太(左)

北関東を中心とした1都14県に140店舗を展開するスーパーマーケットチェーン・株式会社ベイシアが、「売上5,000億円、長期的には1兆円」への飛躍を見据え、M&Aによる非連続成長戦略を加速させている。2025年12月、愛知県を地盤とする株式会社トップホールディングス(傘下に株式会社トップワンを擁する)との資本提携を実現し、東海エリアにおける事業基盤の強化へと大きく踏み出した。トップワンが手厚く店舗網を展開する名古屋中心部と、ベイシアのドーナツ状の郊外店舗網との見事な補完関係は、単なる足し算を超えた掛け算の相乗効果を生み出す戦略的布陣だ。M&A対象企業の選定基準、買収後のシナジー創出を担う「連邦経営」の哲学、そして「インクがにじみ出るような」エリア拡大構想まで──ベイシアのM&A戦略の核心を、経営企画本部 役員待遇本部長 三池 雄太 氏が明かした。

非連続成長を武器に──中長期目標が生んだM&A戦略の必然

ベイシアの事業内容と、近年の強みについて教えてください。

株式会社ベイシア 経営企画本部 役員待遇本部長 三池 雄太 氏
株式会社ベイシア 経営企画本部 役員待遇本部長 三池 雄太 氏

当社はショッピングセンターチェーンを経営しており、関東・中部地方を中心に1都14県で140店舗を展開しています(2026年8月時点)。売上高は2026年2月期で3,615億円に達しており、今回ご縁をいただいたトップワンさんはこの数字にカウントしておらず、連結ベースでさらに加算されます。

当社は商圏ニーズに合わせ、売場面積1,500〜3,000坪で衣・食・住を総合的に扱い広域から集客する「スーパーセンター」と、600〜900坪で食品と雑貨を中心に小商圏に根差す「スーパーマーケット」の2業態を中心に展開しています。もともとの強みは、郊外の広い敷地を活用し大型店舗をローコストで出店するビジネスモデルです。地価の安い郊外でコストを抑え、低価格商品をフックに広域からお客様を引き付ける。これが従前の柱でした。近年はそれに加え、プライベートブランド(PB)商品の強化が新たな収益源となっています。外部機関による味覚評価に合格した商品のみを対象に高品質と低価格の両立を目指した「ベイシアプレミアム」と、毎日の生活に必要な商品を手頃な価格で提供する価格訴求型のPBを軸に、品質と価格の両面からお客様の支持を獲得しており、このPB商品体系が収益基盤を支えながら、全体の低価格政策を後押しする役割も担っています。

ベイシアプレミアム
ベイシアプレミアム
PB(プライベートブランド:オリジナル商品)
PB(プライベートブランド:オリジナル商品)

もう一つの強みはデジタルです。内製で専門人材を抱え、開発から現場への定着まで可能な限り社内で対応できる体制を整えており、そのノウハウを蓄積しています。全店にスマートデバイスを導入し、接客サービス支援から教育支援まで現場のオペレーションを幅広くサポートしています。また、2020年にローンチしたベイシアアプリは、クーポン配信やチラシ閲覧、ネットスーパー連携など多彩な機能を備え、お客様の日々のお買い物を便利にする重要なデジタル基盤として機能しています。こうしたデジタル資産の厚みも、今回のM&Aにおける重要なシナジー源となっています。

着実な自社出店を続けてきた御社が、M&Aという手法に踏み出した背景はどこにあるのでしょうか。

株式会社ベイシア 本社外観
株式会社ベイシア 本社外観

最も大きな理由は、中長期計画として掲げた高い目標の達成です。新中期経営計画では売上5,000億円の達成を定量目標とし、さらに長期では売上1兆円を目指しています。この目標を比較的短い時間軸で実現するためには、成長速度が求められます。オーガニックな出店は当然続けますが、それだけでは目標達成までのスピードに限界があります。M&Aによる非連続成長を組み合わせることで、計画の成功確率を高めること。それが一つの大きな動機です。

検討の条件としては、当社の出店エリアである関東・東海内で、一定の規模があり、当社の出店エリアに近接し、人口が減りづらい地域にある会社を軸に考えていました。そうした観点でいくつか検討していたところ、今回ご紹介いただいたトップワンさんは多くの条件が合致していました。

20年越しの伏線が結実──名古屋通勤圏戦略が導いた東海躍進の青写真

東海エリアをM&A戦略の最重要地域と位置づけている理由を聞かせてください。

当社は実は20年以上前から東海に出店しています。2004年に愛知県に初出店して以来、着実に店舗を積み上げてきました。その20年ほどの時間軸の中で、愛知県や岐阜県ご出身の方が大学卒業後に入社し、地域で活躍して店長などの管理職に育っている。地元人材が着実に揃ってきました。東海地区でこうした人材にさらなる成長機会を与えたいという思いは、一つの経営課題でもありました。

ベイシア スーパーマーケット
ベイシア スーパーマーケット

一方で、関東に比べると東海地区の店舗数はまだ多くありません。北関東はある程度マーケットシェアも確立していますが、東海はまだこれからです。競争環境の観点で、当社のビジネスと直接代替性が高いプレーヤーが意外と少なく、同じ施策を走らせても東海地区の方がパフォーマンスが良い傾向があるという分析もあります。そこで新中期経営計画のもと、当社は重点ターゲットエリアを定め、出店を加速させる方針を明確にしました。東海地区への出店を13年ぶりに再開し、2025年には浜松中田島店・長久手店を相次いでオープンさせています。北関東より人口も多く、当社のリソースも整っている。人材が育ち、市場の伸びしろも大きい—一気に加速できる材料が揃ってきたのが、東海エリアでした。

トップワンをグループに迎え入れた最大の決め手はどこにあったのでしょうか。

本当に「ぴったりピースがはまる」という感覚でした。まずエリアの補完関係です。当社は東海圏において名古屋市の中心部を外し、ドーナツ状に出店していました。その「間」をトップワンさんの一等立地を中心とする店舗網が埋めている。エリアがまったく競合せず、見事に補完し合っていたのです。これまで名古屋の中心部には全く進出できていませんでした。今回の資本提携によって、初めてその中心部への足がかりを得ることができました。

本M&Aについてのシナジーを語る三池氏
本M&Aについてのシナジーを語る三池氏

業態面でも補完関係があります。当社は大型店舗が中心ですが、トップワンさんは名古屋中心部という立地もあり、300〜500坪程度の中小型店舗を展開されています。当社にはなかった店舗フォーマットを獲得できたことは大きな意味を持ちます。商品構成の観点では、グロサリーを中心とした品揃えが非常に充実していて、価格帯も比較的低く設定されています。青果・鮮魚・精肉も一通り揃い、鮮度や品質においても高い評価を得ています。当社もグロサリーが得意な領域ですので親和性が高く、トップワンさんの強いグロサリー売り場に当社のPB商品が入ることで、さらに魅力度を高めながら収益改善も図れる——これが最初にご提案資料を拝見した時から感じていた大きなシナジーです。両社の一等立地と郊外立地の店舗網を掛け合わせたエリアマーケティングや共同配送を行うことで、「1+1=2.5」になるビジネスシナジーが創出できると確信しました。

PB・アプリ・インフラ・DX──「連邦経営」の哲学が生み出す多層的シナジー

買収後の統合方針(PMI)と、具体的なシナジー創出の計画を教えてください。

基本的な方針は、屋号を維持し、その会社が培ってきた強みを活かすことです。まるっきり今までのやり方を否定して、すべてベイシア色に染めることは全くしません。その会社が蓄積した強みを活かしながら当社としてお手伝いできることを支援する。むしろ彼ら自身に考えてもらい、ベイシアから引き出してもらうというスタンスです。これがベイシアグループの「連邦経営」の思想です。現在、副社長として1名、執行役員として1名を派遣していますが、彼らは「ベイシアの人間」としてではなく、「トップワンの人間」として仕事をしています。トップワン目線でベイシアから何を引き出すかを考えながら行動することが、彼らの役割です。

買収後の方針について語る三池氏
買収後の方針について語る三池氏

具体的なシナジー創出は、大きく3つの柱から成ります。まずPBです。トップワンさんはすでに生鮮・グロサリー・日用品全般にわたり豊富な品揃えを低価格でご提供されています。そこにベイシアプレミアムをはじめとしたPBが加わることで、商品構成がさらに充実し、お客様に安くて良い商品をお届けできるとともに、収益面でも改善が図れます。

次にアプリです。ベイシアのポイントアプリをトップワンにも展開することで、顧客の囲い込みが可能になります。共同アプリ企画なども視野に入れており、ベイシアアプリの会員になっていただくことでトップワンへの来店動機も高まり、ひいてはエリア全体のシェア拡大に直結します。

そして3つ目がインフラです。資金面の制約から十分な設備投資に手が回りきれていなかった部分があったと思います。当社の傘下でその部分をフォローアップし、店舗の修繕やアセットのリモデルを進めることで、お客様の買い物環境をより良くできます。

加えて、当社が培ってきたDXのノウハウも積極的に提供していく考えです。スマートデバイスの導入や作業割当システムなど現場のオペレーション効率化を支援することで、トップワンさんの収益力をさらに高めていきたいと思っています。

人材育成においては、チェーンストア経営の基礎教育カリキュラムをトップワンの従業員にも受講いただくとともに、人材交流を通じた実践的なスキル移転も進めています。今まさに試行錯誤しながら、着実に前進しているところです。

選定基準・経営者評価・拡大構想──M&Aを成長エンジンとして使いこなす実践論

M&A対象企業に求める条件を具体的に教えてください。

エリアは関東と東海地区を中心に店舗展開しているスーパーマーケットが基本対象です。規模は年商100億円前後以上を目安にしています。アセットの親和性という観点では、売り場面積500坪前後以上が一つの基準ですが、今回のトップワンさんのように人口密度の高いエリアであれば300坪前後以上でも十分に検討対象になります。

M&Aを検討する際、経営者のお人柄はどの程度重視されますか。

評価は業績も含めて総合的に行います。業績が良く、経営者が優秀であれば、その方に続投いただく判断になります。一方で、立地が良くても業績が思うように伸びていないケースでも、それだけでM&Aをお断りする理由にはなりません。体制の刷新も含めた協議を行いながら、ともに成長できる可能性があるかどうかを総合的に判断するスタンスです。

今回のトップワンさんについては、最初にお会いした時の祖父江社長のご印象として、率直に申し上げて「すごい方だな」というものでした。頭の回転が非常に速く、常に先を見据えて考えておられる。パワーもあり、お一人でトップワンを率いてこられたことに納得がいく方でした。非常に聡明で、かつ低姿勢で言葉も柔らかい。祖父江社長が率い、業績も良好だからこそ、続投いただくスタンスで進めることが今回の最適解であったと判断しました。

今後のエリア拡大の構想を聞かせてください。

今後の拡大戦略について語る三池氏
今後の拡大戦略について語る三池氏

「インクがにじみ出るように」という表現が近いかもしれません。関東・東海に隣接する地域へ自然な形で広げていくという考え方です。特に重点的に取り組んでいるのが「名古屋通勤圏」——名古屋から車や電車で30分程度の半径で、北は岐阜市、西は三重県桑名あたりまでのエリアです。三重県については、当社のドライグロサリー系の配送センターが桑名にあることから、物流面でも全く違和感のないエリアです。静岡県も重要視しています。当社の店舗数は愛知より静岡の方が多いくらいで、東海という文脈では浜松エリアも含めて引き続き注目しています。まずは東海三県(愛知・岐阜・三重)の地盤をより強固にし、そこから隣接エリアへと着実に広げていく構想です。

今回のM&Aプロセスを通じて、仲介を担当したストライクのサポートはいかがでしたか。

本当に「ありがたい」の一言です。ディール成立に向けたオーナー様との粘り強い調整はもちろんですが、初期段階から当社の事業戦略や社内事情をしっかりと理解した上で動いていただいたことで、交渉全体がスムーズに進みました。利害が対立しがちな場面でも、関係者全員が納得できる着地点を丁寧に模索していただいた。単にディールを成立させるだけでなく、PMIまで見据えた形でうまくまとめていただいた点を高く評価しています。トップ面談から成約まで約半年という期間での成約でしたが、担当の鈴木さんのご支援なしには実現しなかったと感じています。若い方が非常に活躍されており、皆さん優秀で提案力が非常に強い—そういった印象を持っています。

最後に、M&Aを成長戦略として検討されている経営者の方へメッセージをお願いします。

現在M&A案件は引き続き数多く出ており、リスクはある反面、チャンスは以前より確実に大きくなっています。それを機会として捉え、しっかりと見極めながら進めていけば、各社の成長戦略に必ずつながるはずです。「見極め」こそが非常に重要だと考えています。

M&Aアドバイザーより一言

ストライク鈴木悠太

株式会社ストライク 法人戦略部 鈴木 悠太

業界再編や競争激化が加速する食品スーパー市場において、双方の強みを活かした本提携のご支援ができたことを心より嬉しく思います。
トップワン様が培った地域に根差す店舗網と、ベイシア様のスケール・DX基盤が融合することで、東海エリアに「1+1」以上の新たな価値が生まれると確信しています。
ご尽力いただいた両社経営陣および関係者の皆様に深く感謝申し上げますとともに、両社のさらなる発展とご隆盛を心より祈念いたします。

公開日:2026年9月2日

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