INTERVIEW

病院存続のため第三者承継を決断
後継となる院長・副院長の招聘にも成功し、
経営体制も診療体制も充実

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医療法人けんゆう会園田病院 名誉院長(前理事長・院長) 丸山 賢幸 氏、ストライク田島

医療法人けんゆう会園田病院 名誉院長(前理事長・院長) 丸山 賢幸 氏

宮崎県小林市の医療法人けんゆう会園田病院は2024年1月、医療法人の経営支援で豊富な実績を持つ都内の承継先への第三者事業承継を行った。同院は常勤医3名の体制で、急性期医療を中心に“かかりつけ医”として地域の人たちの健康を支えてきたが、後継者問題を抱えていたこと、経営のみならず診療の負担も大きかったことから、M&Aを決断したという。
名誉院長(前理事長・院長)の丸山賢幸氏にM&Aの背景や譲渡後の経営・診療体制の変化などについてお話を伺った。

医療法人けんゆう会園田病院
ご成約インタビュー動画

常勤医3名で救急の当直も分担
経営・診療の負担は大きく
心身ともに限界が見えた

病院の沿革、特徴を教えてください。

園田病院内の様子
園田病院内の様子

地域の中核病院として、急性期医療を中心に外科、内科、脳神経外科、循環器内科などの外来・入院診療を行うとともに、リハビリ、介護、訪問診療もカバーして、入院から退院後まで“切れ目のない医療”を目指して診療しています。近年は健診事業にも力を入れて、病気の予防・早期発見にも努めています。
私の義父が1986年に開院した病院で、救急と消化器を二本柱に地域医療を担ってきましたが、地域の医療ニーズが変化するのに伴って、大学病院の先生方のサポートも受けながら循環器内科、脳神経外科、リハビリなどを充実させてきました。2010年に介護老人保健施設、2017年に訪問看護ステーションを併設しています。
私は1998年に参画、義父が亡くなった後、2006年に理事長・院長を引き継ぎました。もともとは「友愛会」という医療法人に属していましたが、2014年に病院を建て替え、2017年に日本でおそらく初めて医療法人の分割を行い、「けんゆう会園田病院」としてリスタートしています。

M&Aを考えるようになったきっかけは?

3年ぐらい前、私が60歳になる頃にM&Aの検討を始めました。後継者がいなかったからですが、経営・診療の両方の負担が大きく、心身ともに限界が見えていました。私と義弟、脳神経外科医のドクターの常勤医3名の体制で、救急医療を担っているため3人がそれぞれ月に8~10回、当直をしていました。土曜も診療があり、月に数回、土日の当直もあります。急性期医療に伴うリスクも含め全責任を自分が負うため、常に緊急の連絡に備えなければならず、結局、病院から離れるよりも病院にいるほうが安心で、本当に休みなく働いているような状態でした。
ですので、娘が医師ですが、娘への承継は私も妻も本人も考えていませんでした。運営面は主に妻が担ってきましたが、人材管理の苦労が大きかったです。若い人たちが減っているため、医師、看護師だけでなく、事務系の職員の確保も難しい。実は厨房を自前で持っていたのですが、人材を確保できず外注に変えました。人間関係も含め人的リソースを維持していく負担は大きかったです。

「活性化プロジェクト」に取り組んでこられたそうですね。

個人経営・運営には弊害も限界もあると考え、2016年から社会保険労務士さんに入ってもらい、「活性化プロジェクト」を始動、いつ誰がトップになっても病院が続く体制をつくるべく財務状況や人事評価制度の“見える化”に取り組んできました。私や妻の責任、負担が大きく減ったわけではないですが、プロジェクトは成果を上げ、それがM&Aにおいても発揮されたと思っています。

最初にお会いしたときは「いずれ事業承継を考えたい」というお話でした。

「M&Aの話を聞いてみよう」と言ってくれたのは妻で、私自身は「まずは話を聞くだけ」という感じでした。正直、「M&A=乗っ取り」のようなイメージもあって……。ただ後継者がいないと、いずれ閉院するしかなくなります。閉院すれば、患者さんも200名近くいる職員も困るし、我々もコストと労力を強いられます。地域医療を守りたいという気持ちも強く、借入金もない今ならよいお相手が見つかるのではないかと考え、M&Aを決断しました。

決め手は「一緒にやっていきましょう」
この先も地域医療を共に
守ってくれるお相手を選んだ

希望された条件は?

病院内の様子
病院内の様子

地域医療の中でこの病院が存続することと、我々が経営から離れるだけでなく我々3名の医師の診療の負担が減ること、つまり新しい医師に来ていただくことが条件でした。私自身は自由診療で統合医療をやりたいと考えていて、そのための時間と資金を確保したいとも思っていました
ですので、「我々が経営だけを見ます」というようなオファーはお断りしました。理事長・院長クラスの医師の派遣といった条件を踏まえて数社の候補を精査した結果、2社とトップ面談を行い、最終的に条件が一番合うところにお願いした形です。

同社の面談の印象や決め手を教えてください。

こちらに寄り添うお話をしてくださったのが印象に残っています。一番よかったのは「一緒にやっていきましょう」という方針がはっきりしていたことです。数年たってまた経営母体が変わるような事態を危惧していたため、「一緒にこの地域の医療を守っていく」という姿勢を明確に示してくださったことが決め手になりました。

成約に至るまで不安だったことはありますか?

医師が決まるまでにかなりの時間を要しました。デューデリジェンスが昨春に終わり、秋にはM&A成立というスケジュールを立てていましたが、決まりかけていた医師がNGになり、次の候補が決まったのが10月頃でした。その間はずっとやきもきしましたね。
結果的には一人の予定が二人も来てくださることになり、しかも素晴らしい先生方で、本当にうれしかったです。先生方がいなければ、このM&Aは成功していないと思います。

2024年1月31日にクロージング、2月1日から新体制となっています。

すべて順調です。経営・運営は新理事長・院長、新副理事長・副院長とお相手の会社にお任せしています。病床稼働率も上がってきました。お二人が少しずつ地域の先生方に認知されて、多くの患者さんを紹介いただけるようになったのだろうと思います。
我々はもともと外科系ですが、お二人は内科系です。これまでは大学病院から呼吸器や循環器などの専門医に来てもらっていましたが、新理事長は、ニーズが高いのにこの地域に専門医がいなかった呼吸器科、アレルギー科が専門で、腎臓内科・透析医療の経験もあります。新副理事長も総合内科医ですが、リハビリの経験があり、精神保健指定医の資格も持っています。専門診療の幅が広がったことは当院の新たなブランディングになりますし、何より患者さんにとって大きなメリットだと思っています。

職員の皆様にはいつ発表されましたか?

病院内の様子
病院内の様子

成約直前にまず幹部に、成約後に全員に発表しました。我々が高齢化して今後どうなるのかという不安があったのでしょう。新しい先生が来ることへの期待感、安心感が感じられました。我々が残りますし、特に不安や反対の声はありませんでした。離職した人は一人もいません。
職員も徐々に私ではなく、院長と副院長にいろいろなことを聞くようになり、私のいないところで物事が進むようにもなってきました。お二人とも院長の経験がありますし、私が口出ししないほうがいい。お二人にも「自由にしてください」とお伝えしています。

経営や財務、人事の“見える化”を図り
システマティックな体制づくりを

患者さんへの影響はありましたか?

病院内の様子
病院内の様子

何人かの患者さんは我々がいなくなるのではないかと思ったようで、その心配はないというお話をしました。今のところ我々が診療から完全に離れることは考えていませんので、患者さんに影響はないと思います。医師が増えて、喜ばれているのではないでしょうか。

ご自身の生活に変化はありましたか?

自分の時間がとれるようになりました!毎日、家に帰って家族と夕食をとれる。犬の散歩にもいける。土日はほぼ休みになったので、妻と一緒に演劇を見に出かけたりもしています。全責任を負う重圧から解放されましたし、当直も激減しました。たまに「寝ない」日が来るので、かえってつらいぐらいです(笑)。M&Aをしてよかったと思っています。

振り返って、M&Aを成功に導くポイントは?

専門家の力を積極的に借りることが重要だと思います。実は顧問弁護士のほかにM&Aに詳しい弁護士の先生にサポートをお願いしました。それが終盤になってからで、最初からお願いしておけばよかったとも思っています。クロージングに向け、銀行の方にもいろいろ助けていただきました。
ストライクの田島さんには、お相手だけでなく、社労士や弁護士の先生たちともやりとりしていただきました。百戦錬磨の“切れ者”の先生たちなので、大変だったと思います。きめ細かくサポートしてくれたこと、何より我々の希望に合うお相手と結びつけてくれたことに感謝しています。

よいお相手にめぐりあうためにやっておくべきことは?

客観的に見て魅力を感じられるような体制を築いておくことでしょうか。我々は活性化プロジェクトに取り組み、経営や財務の状況を“見える化”していたため、M&Aに必要な資料もスムーズにそろえることができました。「棚をひっくり返して資料を探す」とか「事務長に聞かないと何もわからない」ような状況では、第三者からよい印象を持たれません。M&Aをする・しないに関わらず、システマティックな体制づくりが必要だと思います。

最後に経営課題を抱える病院の経営者に向けてメッセージをお願いします。

医療法人けんゆう会園田病院 名誉院長(前理事長・院長) 丸山 賢幸 氏
医療法人けんゆう会園田病院 名誉院長(前理事長・院長) 丸山 賢幸 氏

中小病院が自分たちの力だけで経営を続けていくのは本当に厳しい時代で、M&Aは地域医療を守る有力な選択肢です。まずはストライクさんのような専門家の話を聞いてみてはどうでしょうか。DMがたくさん送られてきて、どこに相談すればいいかわからないかもしれませんが、それなら数社に話を聞いて、自分に合うところを選べばいいと思います。聞いてみなければ何もわからないし、何も進みません。何もしないままでは最終的に病院がなくなる可能性が高い時代なので、一歩踏み出してみることが大切だと思います。

本日はありがとうございました。

M&Aアドバイザーより一言(田島 竜嗣・ヘルスケアグループ シニアアドバイザー談)

ストライク田島 竜嗣

医療法人けんゆう会様は、宮崎県小林市で長年にわたり地域医療を支えてきた大切な病院です。同市は人口減少が進み、医療人材の確保が難しいうえ、さらに後継者不在という課題も抱えていました。しかし、地域からは「なくてはならない存在」として強く求められており、その将来を守るために第三者承継をご決断されました。
早期にご相談いただいたことで、納得感のある承継先を選定することができ、承継先からは地域ニーズの高い専門領域を担う後任医師の招聘も実現しました。
M&Aの実施により、後継者問題の解決だけでなく、診療体制の充実につながったことは、地域の患者様にとっても大きな安心をもたらしたと考えています。
今後も、けんゆう会様が築かれた地域医療への想いが引き継がれ、さらなる発展を遂げられることを心より願っております。

2025年7月公開

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