ご成約インタビュー No.143
INTERVIEW
「社風を守りたい」一心で選んだM&A
建築防水資材メーカー「山装」が60年の節目に決断した事業承継
- #後継者不在
- #事業拡大
- #従業員雇用
- #老舗
- #製造業
- #建築・土木

株式会社山装 代表取締役 山田 進弘氏
神奈川県横浜市に本社を構える建築防水資材メーカーの株式会社山装は、2025年7月、広島を拠点とする不動産総合企業の株式会社みどりホールディングスとの資本提携を実現した。1965年の創業から約60年、マンションや学校などの屋上防水に使用する副資材に特化し、安定した顧客基盤を築いてきた同社が、なぜこのタイミングでM&Aを選択したのか。山田進弘代表取締役に、事業承継への想いと決断の背景を聞いた。
株式会社山装
ご成約インタビュー動画
建築防水資材分野で高いシェア 顧客ニーズに応える製品開発力が強み
まず、御社の事業内容と特徴について教えてください。
主な事業は建築防水関連資材の製造・販売です。主力製品は「ダモ脱気筒」「ダモ改修ドレン」などで、マンションや学校などの集合建造物の屋上、それから戸建ての木造住宅のベランダに施す防水の副資材に特化しています。
1965年の創業当初は建築材料の販売・室内装飾工事を主体としていましたが、1994年からFRPドレンの製造を開始し、防水資材分野に本格参入しました。現在は本社・防水資材事業部(神奈川)、静岡工場・倉庫、大阪物流倉庫を拠点に、全国の顧客に製品を供給しています。
御社の強みはどこにありますか。
事業の強みとしては顧客のニーズに基づいた商品開発力です。弊社はファブレス体制を採用しており、自社工場を持たず外注先5社と連携することで、固定設備に縛られることなく、お客様のニーズに対して常に最適な製品を提供できます。各製品のマーケットシェア率は50%を超えており、ニッチな分野ながら確固たる地位を築いています。
同じ目的の製品でも日々改良を重ねており、この柔軟性が高い収益性につながっています。また、創業から長年培ってきた技術力と信頼関係も大きな財産です。
そして、最大の強みとしてあげるならば「いざという時に一丸となれる社風」ですね。
親族承継の断念から始まった5年間のM&A活動 社風の維持を最優先に譲受企業を選定
16期連続増収という好調な業績の中で、なぜM&Aを検討されることになったのでしょうか。
個人的な話になりますが、子供は2人いるものの、彼らが自分たちの道を決めてしまったため、親族承継が難しい状況になりました。それが5年前のことです。私が54歳という年齢を考えると、会社を継続し続けるための手段の一つとして事業承継について真剣に検討していました。
当社は現在、35名の従業員とともに事業を運営しています。この体制を維持し、さらに発展させていくためには、適切な事業承継が不可欠でした。
譲受企業に求める条件はどのようなものでしたか。
最も重視したのは社風の維持です。我々のようなニッチな業種だと、事業シナジーでのマッチングはなかなか難しいんですね。それよりも、まずは従業員が長く安心して働ける環境を維持してくれる企業を最優先に求めていました。また、事業の継続性と従業員の雇用維持は重要な条件でした。
社風維持への理解が決め手 広島との距離が生む絶妙なバランス
最終的にみどりホールディングスさんを選ばれた決め手は何でしたか。
一番の決め手は、社風の維持を尊重してくれたことです。他の候補企業からはその点へのアプローチがあまりありませんでした。みどりホールディングスさんは「自立できている企業を取り入れたい」「基本的には任せて運営する」というスタンスで、それが逆に良かったのです。
また、広島という適度な距離があることで、お互いに必要な時にしっかりと連携を取りながらも、日常的な運営については現場に任せていただけるという安心感がありました。杉川社長とお話しする中でも、細かな経営判断まで介入するのではなく、大きな方向性を共有しながら我々の自主性を重んじてくださる姿勢を感じ取ることができました。
杉川社長にお会いした時の印象はいかがでしたか。
杉川社長は、非常に話しやすく、こちらの話をしっかりと聞いてくださる方でした。社員さんとの距離が近く、気さくな対応をされていたので、とても親近感が持てました。不動産事業を幅広く手掛けているみどりホールディングスさんなら、建築現場での課題や困りごとといった生の情報が入りやすくなり、我々の製品開発にも活かせると感じました。
株式譲渡が7月30日、創業が1965年7月ということで、ちょうど60年の節目でのM&Aとなりました。
親族承継が難しいと思ったのが5年前で、60歳までに事業承継を完了させたいという目標がありました。5年かけてM&Aのお見合い活動をしようと決めていたのですが、予想より早く良いご縁に恵まれました。
まだ自分で継続してオーナーをやっても良かったのですが、万が一自分が事故で急に倒れてしまったら、この会社はどうなるのかという不安がありました。株の問題も含めて、この重荷を背負わせるのは簡単ではないだろうと。大きな会社であれば、我々の規模を大きく感じることなく、いざとなったら応援もしていただけると思い、全ての条件が当てはまったので、迷いは少なかったです。
従業員の安心と経営者の心境変化 自己資本比率50%達成の好タイミングでM&A実現
従業員の皆さんにM&Aについて伝えた時の反応はいかがでしたか
正式な締結後に全従業員向けに説明会を行いました。最初は驚きもありましたが、皆さん理解を示してくれて、むしろ前向きにとらえてくれる従業員も多く安心しました。
長く勤めていた社員は、私が厳しいことや、企業が数字的に厳しかった状況のことも知っています。それが年々良くなってきて、目標としていた自己資本比率50%を達成した年にM&Aを締結しました。経営的にも社員が安心でき、私も自信を持って伝えられる状態になっていたので、まさに一番いいタイミングでした。
M&Aから約2か月が経ちましたが、どのような変化を感じていますか。
良かった点は、自分のゴールが定まらない状態から解放されたことです。以前は、このまま頑張り続けていいのかどうか迷うような、資産がどんどん膨らんでいく中で誰かが受け止めづらくなるという葛藤がありました。
M&Aの締結前と後では、気持ちがスッキリして、開発などにも関わり始めています。未来の発展を想像することがより楽しくなりました。ゴールがはっきりし、後継者も決まっているので、逆算して社員を育てることなどを考えられるようになり、やることは多いのですが、気持ちは晴れやかです。
今後の事業展開についてはどのようにお考えですか。
現在、我々は主にマンションや学校の屋上、戸建住宅のベランダなど水平面の防水に使用される資材を扱っていますが、今後は建物の外壁や地下構造物など垂直面・立体面の防水分野にも事業を拡大していきたいと考えています。防水という技術は共通していても、施工場所が変われば求められる製品特性も変わってくるため、新たな市場開拓の可能性があります。
さらに長期的には、防水技術で培ったノウハウを活かして、建築分野以外の産業への展開も視野に入れています。例えば、密閉性や耐久性が求められる他の分野でも、我々の技術が応用できる可能性があると考えています。みどりグループとの協業により、現場のニーズを的確に把握し、新たな製品開発につなげていきたいです。
事業拡大に伴って商品の出荷量が増加すれば、今以上に全国各地への物流拠点の展開も視野に入れています。
事業承継の手段としてのM&A 財務体制と社風づくりが成功の鍵
M&Aのメリットについて、どのようにお考えですか。
M&Aは、バトンをどう渡すかの手段の一つだと思います。魅力がなければバトンは渡しづらいですが、魅力がありすぎても受け取りにくい。M&Aでは、資本家が投資という形で買収することで、会社が潰れないようにサポートしてもらえます。権利と義務が同時に移るわけで、特に事業承継において非常に大きな手段の一つだと考えています。
今回のM&Aを進める中で、ストライクの担当者のサービスはいかがでしたか。
高木さんと森下さんには本当にお世話になりました。M&Aは初めての経験でしたが、常に一歩先を見越してご指導いただけたので、迷うことなく進めることができました。特に社風の維持という我々にとって最も重要な条件について、譲受企業にしっかりと伝えていただけたことは非常に心強かったです。
最後に、今後M&Aを検討されている経営者の方々にメッセージをお願いします。
M&Aは事業承継の有効な手段の一つですが、何より大切なのは自社の魅力を高めておくことだと思います。従業員や取引先との信頼関係、そして会社の社風といった目に見えない資産も非常に重要です。これらがしっかりしていれば、必ず理解してくれる譲受企業が見つかると思います。
M&Aは決してゴールではなく、新たなスタートです。事業承継でお悩みの経営者の方は、ぜひ一度専門家にご相談されることをお勧めします。
本日はありがとうございました。
M&Aアドバイザーより一言(高木 俊元・法人戦略部 シニアアドバイザー談)

山装様は、事業シナジーはもちろんのこと、特に企業文化や風土を重視され、今回の資本提携を決断されました。
決算書などの数字には表れにくい部分ですが、非常に重要な要素です。面談を重ねる中で、両社が互いの評価制度など組織論について熱心に語り合われていた光景が、大変印象に残っております。
みどりホールディングス様の強固な事業基盤を活かすことで、山装様の優れた商品がさらに販路を広げ、世の中で目にする機会が増えれば嬉しく思います。
M&Aアドバイザーより一言(森下 優輝・法人戦略部 アドバイザー談)

山装様は、防水という観点からベランダや屋上など人々の暮らしを守る「脱気筒」や「ドレン」を手掛ける、ニッチトップメーカーです。
過去には、台風による高波被害で商材が流され、事業継続が困難な状況に陥られたことがありました。その際も、従業員の皆様が一丸となって復旧に尽力され、わずか2日で事業を再開。結果として、増収増益を達成されました。
このような“人の力”に支えられた強固な組織風土こそが山装様の最大の財産であり、その想いを大切にしてくださるパートナーをお探しでした。
その中で、企業文化を尊重しながら共に事業拡大を描ける存在として、みどりホールディングス様をお選びになりました。
防水業界に新たな風を吹き込む本件に携われたことを、心より光栄に存じます。 山装様の今後の更なるご発展を心よりお祈り申し上げます。
2025年10月公開
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